「あの2頭がいても……」と思わせるに十分な勝ちっぷりだった
文/浅田知広、写真/川井博
絶対に負けられない戦いがそこにある。なにか別のスポーツのようにも聞こえてきてしまうが、この
有馬記念、
ゴールドシップにとっては、まさにそんなレースだった。
特別登録の発表だ予想だという以前に、まず話題になったのは、
ジャパンCの①&②着馬・ジェンティルドンナとオルフェーヴルの
回避だった。ゲートに入ってスタートしないかぎりはどうやっても勝てないのが競馬。この時点でジェンティルドンナとオルフェーヴルは、今年の
有馬記念を勝つ資格を失っていたことになる。
とはいえ。2頭ともなにせ実績が実績。できれば出走してほしいという
ファン心理は別にして、
有馬記念に出なかったことで傷がつくような話ではなく、さらに言えば、
無理をしてまで出走するよりは……、という考え方もまた納得できるところだ。
ただその一方で、どんなに強い馬でも負けるときは負けてしまうのが競馬でもある。
ジェンティルドンナとオルフェーヴルが出走すれば
ジャパンC同様に①&②着だったかといえば、そんなことはやってみなければわからない。わからないのだが、出てこなかった馬はどうやっても負かせない、というのが今回の
ゴールドシップの立場。
「あの2頭がいないから勝てました」とは絶対に言わせない、
「あの2頭がいても、もしかしたら……」と思わせるような、強い勝ち方が要求されるレースだった。
そんな中で
ゴールドシップは、期待をまったく裏切らない、本当に強い勝ち方をしたと言っていいだろう。
ルーラーシップが大きな出遅れを喫する波乱のスタートになったが、馬群に目を移せば、
ゴールドシップも
内田騎手の手が激しく動きながら1頭ポツンと後方に取り残されているではないか。
もちろんこれまでも、
ファンを
冷や冷やさせるような位置取りからでも勝ってきた馬ではある。しかし、今度は小回り中山。それも、内ががらっと開いた
皐月賞とは、まったく違う馬場状態の中山である。人気を背負った立場、16頭のフルゲート、そしてすんなり内を突いて抜け出せるとも思えない馬場状態。
菊花賞のように向正面からでも動かないかぎり、相当な
コースロスを喫する競馬が予想された。
そして、向正面では動かずに迎えた3コーナー。正面からのカメラには、馬群の後方ですっと外に持ち出す白い馬体が捉えられていた。
ゴールドシップが勝つと考えていた
ファンも、ある程度は予想していた展開であろう。
しかし、これは一攫千金を狙った
ファンにとっても予想通り。
「これで前さえ開けば一発あるぞ」。なにを隠そう、
オーシャンブルー1着固定の3連単を買っていた
私にとっては
「しめしめ」といった展開、他の馬が本命でも同じように感じた方もいたことだろう。
しかし、そんな期待を打ち砕く、そして同時に、買ってくれた
ファンの期待には十分に応える
ゴールドシップの強さだった。どれほど余分な距離を走ろうが、このメンバーでは負けられない。大外の分だけ位置取りを下げる場面もありながら、そこからもう一段加速しての豪快な差し切りである。
後から見れば4コーナーでひと息は入れていたのだろうが、第一印象は
「この馬、どんだけ長く脚を使えるだ?」。距離損はさておき、中山コースの適性自体は高いと思われていたとはいえ、それにしても見事な完勝劇。
「あの2頭がいても……」と思わせるに十分な勝ちっぷりだ。
そして、これだけの強さを見せながら、レース運びからも、年齢や血統からも、さらに伸びる余地を残しているのだから恐ろしい。
一昨年にもこの
有馬記念の
インプレ原稿で紹介したが、グレード制導入後、
有馬記念で③着以内に好走した同年の皐月賞馬はシンボリルドルフ、ナリタブライアン、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ヴィクトワールピサ、オルフェーヴル、そして今年の
ゴールドシップ。
G1・3勝ですでに名馬の域には達している
ゴールドシップだが、まだまだ歴史に残る大仕事をやってくれるに違いない。