馬の性能と騎手の選択が見事に噛み合った10頭抜き
文/編集部(W)
マラドーナと
メッシの
5人抜き。小柄な体躯から繰り出される小気味良いステップとボールタッチでハーフウェーラインからドリブルを開始すると、吹き抜ける風のようにスルスルと
相手選手を交わし、最後は
ゴールキーパーまで抜き去ってゴールした
伝説の名シーンである。
ドリブルを開始した地点からゴールまでの経路、
相手選手の交わし方、シュートした時の角度など、その一連の流れがあまりにもそっくり過ぎて呆気にとられたが、どちらも
ファンを魅了してやまない
スーパープレイであることは間違いない。
余談だが今回の出走馬のうち、もっとも重かったのが
508kgの
エーシンメンフィスで、もっとも軽かったのが
422kgの
ハナズゴール。その差
86kgはドラマ
『池中玄太80キロ』に登場する
池中玄太(西田敏行)約ひとり分と考えると、かなりの重量差であることがわかる。
00年日経賞で馬番7番の
グラスワンダー(
530kg)と馬番6番の
ステイゴールド(
422kg)がパドックで歩いているのを見て、
グラスワンダーが大きいせいもあるだろうが
「ステイゴールドは小さいなあ」と思ったことがあったが、
ハナズゴールにも同じ感想を抱く。
マラドーナや
メッシと同じようにその小柄な体を躍動させ、直線で内から馬群を捌いてスルスルと抜け出し、後続を突き放してゴールした
ハナズゴールのレースぶりを見て、連想したのが
マラドーナと
メッシの
5人抜きだった。
ハナズゴールの4角位置取りは11番手で、その後10頭を抜いてゴールしたので、どちらかと言えば
『シュート!』の
久保嘉晴の
11人抜きがイメージに近いのかもしれないが、まあ、細かいことはいいでしょう(笑)。
ハナズゴールが3枠4番という枠順に決まった時、まず考えたのが
「どの進路を取るか」ということだった。
チューリップ賞は出遅れて直線で大外を回りながらも
ジェンティルドンナや
ジョワドヴィーヴルを下して差し切り勝ち。後方に下げて大外を回る
ロスがあっても
それを相殺できるだけの末脚があり、先行馬も揃っていることから極端なスローペースにはならないはずで、馬群を突いて前が詰まる
リスクを考えれば、人気馬だけに直線で外を回すのは悪くない選択だろう。
ただ、内を通った馬が有利な京都の馬場状態を考えると、他の
騎手も同じように内を意識するだろうが、この内枠から出たなりに内で進めるのも妥当とも思える。前走の
リゲルSは馬群を捌いて抜け出していて、あの器用さと加速力があれば馬群を捌けると、
浜中騎手ももちろんわかっているはず。
結局、自分の頭の中では結論が出なかったので、
浜中騎手の選択に注目していたのだが、答えは
「内」。いかに鋭い決め手があり、小脚が使えるとはいえ、単勝1.7倍の大本命で内を突くのはかなり勇気のいることだと思うが、このあたりは
浜中俊という騎手の性格が表れているように思える。
浜中騎手の好判断に導かれ、重賞2勝目のゴールを駆け抜けた
ハナズゴール。
桜花賞を負傷により
回避し、
ローズSは感冒で
出走取消。
札幌記念から直行となった
秋華賞で⑯着と
大敗し、その後は一気の距離短縮で芝1200mの
京阪杯に出走するなど、数々の
試練を乗り越え、
紆余曲折を経てここまで辿り着いた。
芝1600mに戻って2連勝したことからも、今後はマイル路線に腰を据えたローテーションが組まれることになるだろうし、今春は
ヴィクトリアマイル(5月12日、G1・東京芝1600m)が最大目標となりそう。
ちなみに、これで
京都牝馬Sは4歳馬が5連勝となり、その勝ち馬の中には
ヒカルアマランサス(10年)、
ドナウブルー(12年)がいるが、いずれも同年の
ヴィクトリアマイルで②着に好走している。
ただ、
ヒカルアマランサスと
ドナウブルーは
京都牝馬Sでの斤量が52kgだったのに対し、
ハナズゴールは54kgを背負って2馬身半差をつけての完勝。斤量と着差を考えると、同じ勝利でも価値は高く、また、大外を回さず、馬群を突けるという選択肢も増えたことで、
ヴィクトリアマイルに向けて期待が膨らむ結果となったのではないだろうか。
選択肢が増えたと言えば
エーシンメンフィスも同じ。逃げ切りで3連勝を飾った前3走とは打って変わり、今回は思い切った後方待機策に出たが、直線で大外から鋭伸し、大接戦の②着争いを制した。今回の走破時計は
1分34秒7で、依然として時計短縮が
課題になりそうではあるが、距離と脚質に融通性を見せたのは大収穫だろう。