過去に例のないフェブラリーSを制したのは充実の5歳馬
文/浅田知広、写真/川井博
G1実績馬も少なくなかった今年の
フェブラリーS。しかし、多くの皆さんがメンバーを見てまず頭に浮かんだのは、
「混戦」という言葉だったり、
「難しいレースだなあ」という第一印象だろう。いったいなにが原因か、といえば。ひとつ、
直近のG1・Jpn1優勝馬がまったくいなかったことが挙げられる。
JCダート・
ニホンピロアワーズ、
東京大賞典・
ローマンレジェンド、そして
川崎記念・
ハタノヴァンクール。勝った馬が次のレースで順番に抜けていき、
フェブラリーSまで残った上位馬はこの3レースで②&③&②着の
ワンダーアキュートのみである。
こんな年はあったのだろうかと探ってみると、
JCダート日本馬最先着(②着)の
アドマイヤドンが優勝した04年以来で、
JCダート創設後ではこの1回のみ。その04年にしても
アドマイヤドンが単勝1.3倍の断然人気に推され、
混戦模様の今年とは対照的。
過去に例のないフェブラリーSだった。
そんな難しいレースをどうやって予想すべきか。その04年・
アドマイヤドンが3走前、前々走に
南部杯、
JBCクラシックを連勝していたこと、そして「繰り上がり」続きの傾向からすれば、まず昨年の
JBCクラシックを制した
ワンダーアキュートが有力候補。
もうひと押しすれば、
南部杯を勝った
エスポワールシチー。しかし、そこまで単純なもんじゃないだろうというのが皆さんのお考えで、
ワンダーアキュートは7番人気、さらに
エスポワールシチーは9番人気という
低評価。理由はそれだけではなかったが、こんな人気薄なら喜んで◎
エスポワールシチー、○
ワンダーアキュートという予想を立てた
当方だった。
こうして頭を悩ませた予想から数日後、日曜午後3時半過ぎ、
フェブラリーSの直線坂上。いやあ、こんな単純な予想で高配当が獲れてしまうのか、と思ったつかの間のこと。直線前半は内で包まれ、外に出してからもしばらくモタモタしていた▲
グレープブランデーが
「そんな単純なもんじゃないよ」と言わんばかりのエンジン全開である。
思い返せば1度だけ経験のあった東京ダ1600m・11年の
ユニコーンSでも、直線半ばあたりからしぶとく脚を伸ばしてはいた。ただ当時は、直線早々と抜け出した
アイアムアクトレスが1馬身差で振り切って優勝。
今回の
エスポワールシチーも残り200mあたりまでは、まるでその
アイアムアクトレスのような競馬だった。しかしあれから1年半以上。今年の
フェブラリーSに出走していたのは、
充実の5歳・本格化を迎えたグレープブランデーである。
当方の頭に一瞬は浮かんだ
「いろんなもの」を次々と蹴散らしてゆく力強い末脚で、今度は前を捕らえたばかりではなく、先頭に立ってからさらに突き放す見事なG1制覇だった。
本格化したとはいえ、
鞍上の指示に鋭く反応するとは言えない面を残す
グレープブランデー。同じようにズブいタイプでも、小回りで3コーナーあたりから長く脚を使う競馬が向く馬もいれば、直線の長いコースで末脚を伸ばす競馬が向く馬もいる。
グレープブランデーは前走・
東海Sでも前が詰まり気味になり、直線半ばから末脚を伸ばして優勝している。どうやら長い直線で中団あたりから末脚を活かす形のほうが、この馬の力を一層引き出せるようだ。逆に言えば
課題も残していると言えるのだが、それは
まだまだ強くなる可能性を秘めているということにもなる。
世界を制した短距離王国・
安田隆行厩舎から誕生した、少々毛色の違う新たな王者・
グレープブランデー。海の向こうでは、連勝した中京、東京と同じ左回りで、400mほどの直線を持つコースで行われる
大レースが3月末に待っている。僚馬とともに
グレープブランデーにも、ぜひその勇姿を見せてほしいものだ。