優勝馬を2頭にしたくなるようなレースだった
文/編集部(M)、写真/森鷹史
1~2コーナーを回って行く時、
ヒットザターゲットと
ダコールは、同じように
後方の内ラチ沿いを走っていた。前にいたのは
ヒットザターゲットで、その直後に
ダコールは付け、似た脚取りで折り合いを付けていた。
2頭は同じ
ノースヒルズマネジメントの生産馬で、
年齢も同じ(5歳)。誕生日も11日違いで、なんだか、校内マラソン大会で「一緒に走ろう」と示し合わせたふたりのように見えた。
3コーナーが近づくと、先に仕掛けたのは
ダコールの方で、
ヒットザターゲットに別れを告げるように前へ進出し、勝負所では先行馬の直後までポジションを押し上げた。
直線に向くと、
ダコールの鞍上・
丸田騎手は馬を
外に持ち出し、脚を伸ばす。一方、
ヒットザターゲットの鞍上・
大野騎手は、
ダコールが先に行っても自分のペースを崩さず、ずっと
内ラチ沿いを走って、そのまま直線でも
内を突いた。
果たして、ふたりは、またもゴール前で示し合わせたかのように並び立つわけだが、内外の差もあり、軍配は
ヒットザターゲットの方に上がった。それでも、2頭の走破時計はまったく同じ(
1分46秒4)で、上がり3Fも同じ34秒3(メンバー中1位タイ)。
優勝馬を2頭にしたくなるようなレースだった。
先に動き、直線で
外に進路を採った
ダコールと、終始
内にこだわった
ヒットザターゲット。3~4コーナーでのコース取りが
明暗を分けたわけだが、これは人気の度合いも関係していたのだろう。
ダコールの
丸田騎手はインを突くことをよくやるジョッキーで、それでも
外へ進路を採ったのは、手応えの良さに加えて人気(
2番人気)を背負っていたことも関係していたと思われる。
ヒットザターゲットは
6番人気で、その点では多少は気楽な立場だったのではないか。
もちろんこれで2頭の勝負付けが済んだとは言えず、むしろ、この2頭にはもう一度同じ舞台で雌雄を決してほしいものだ。その時の人気は、枠順や馬場状態によっても変わってくるのだろうが、できることなら
同じ鞍上で、どのような進路を採るか、見てみたい。この2頭だけで
「名勝負数え歌」を作ることも可能なんじゃないですかねぇ。
それにしても、
ヒットザターゲットが最内を突いて伸びてきた時は、鞍上が
古川騎手かと錯覚してしまった。
古川騎手は
ヒットザターゲットが
新潟大賞典を制した時の鞍上で、その時が
1枠1番だった。
古川騎手はその他にJRA重賞を2勝しているが、その2戦は
馬番2~3番(97年
阪神3歳牝馬S:
アインブライド・馬番2番、09年
クイーンS:
ピエナビーナス・馬番3番)。イン突きでの重賞制覇が多いのである。
しかし、よく考えたら、
大野騎手も昨夏の
函館記念(
トランスワープ)を
内枠(2枠3番)でのイン突きで制していて、同馬で
新潟記念を制した時も
内枠(1枠1番)だった。
ヒットザターゲットの陣営にとっては、イン突きの名手を確保し、さらに
内目の枠を引き当てたことが勝利に結びついたのかもしれない。
ヒットザターゲットはこれで500万以上での成績が、
馬番5番以内で[6.1.0.4]、
馬番6番より外枠で[0.0.0.6]となった。500万以上での17戦は、すべて掲示板内かふた桁着順で、成績の波が激しいのだが、
内に入ったら一変があり得ると言える。このことは、今後も頭の中に入れておきたい。
競馬歴が10年以上の人は、
ヒットザターゲットの
母を見ると、懐かしい思いがするだろう。母の
ラティールは重賞戦線で活躍した馬で、特にローカル場での
大外マクリが強烈だった。
母は芝で5勝を挙げたが、OPクラスでは勝ち鞍を挙げられず、重賞では
愛知杯での②着&③着、
中山牝馬Sでの③着が最高着順だった。
「外を回っていたら重賞は勝てませんよ。内を突きなさい」。
母が
息子にそんな耳打ちをした。そんな
妄想を膨らませてしまうような
ヒットザターゲットの快勝劇だった。