異論の挟みようのないスプリント王として君臨する日も近そう
文/浅田知広、写真/稲葉訓也
先週、
フェブラリーSが終わった直後には、
安田隆行厩舎からは
グレープブランデーと
ロードカナロアが、ドバイへ行く可能性も十分に考えられた。ところが、ここ1週で状況は一変。
まずは20日の水曜、
グレープブランデーが
剥離骨折していたことが発表された。幸いにして大きなケガではなく、早ければ6月の
帝王賞での復帰も見込めるとのこと。昨年夏以降、長い休みを取らずに
フェブラリーSまできただけに、これを良い休養として、また大舞台でファンを沸かせてくれることを期待したい。
そしてもう1頭、
ロードカナロアは
アクシデントではなく、長距離輸送のリスクなどを考慮しての回避。こちらは、昨年1番人気で③着に敗れた
高松宮記念を獲りにゆくこととなった。
その
ロードカナロアは昨年、連勝が止まった
高松宮記念から
3連敗こそ喫したものの、秋には
スプリンターズSで僚馬・
カレンチャンを差し切ってG1初制覇。さらに、日本馬にとって
鬼門になっていた
香港スプリントでも圧勝を飾り、日本どころか一気に
世界の頂点まで極めた昨年後半だった。
そして今年。昨年は
シルクロードSでの始動だったが、1月末ではドバイにしても
高松宮記念にしても少々間隔が空きすぎといったところ。ならば
オーシャンSになるかと思いきや、
陣営が選択したのは1400mの
阪急杯である。
1200mでしばらく無敗が続いたため、この距離を
不安視する向きもあったが、デビュー当初には折り合いを欠きながらもマイルや1400mで差のない②着があり、今ならまず問題はなさそうだった。
とはいえ。なにせ約2年ぶりの1400m戦。
高松宮記念は勝つにしても、もしかしたら今回は負けるかも、と考えた人もいたことだろう。そして、
そんな不安が的中するかも、という抜群の好ダッシュだった。
短距離戦での好ダッシュ、一般的には悪いはずもないのだが、この距離と他馬より重い58キロで、折り合いを欠きつつ先行でもしようものなら、たとえ
ロードカナロアとはいえども、というレースだ。しかも、前走で逃げた馬が1頭だけ、先行した馬もほとんどいないメンバーだったにも関わらず、各馬、前へ前へという少々予想外の展開である。
しかし、そこは
世界の頂点を極めたものの風格とでも言うべきか。
行きたいヤツはどうぞ行ってください、と言わんばかりにじんわりと位置取りを下げていき、前4頭から離れた5番手追走。4コーナーで先行勢を射程圏に捕らえると、あとは抜け出すタイミングをはかるだけという、ほぼ完璧なレース内容で今季初戦を勝利で飾ってみせたのだった。
さて、次は昨年の雪辱を期す
高松宮記念になる。1分10秒台の決着だった昨年は③着に敗れ、続く1分9秒台の
函館スプリントSでも、少々の
不利があったとはいえ、この馬としては
「取りこぼし」とも言える敗戦を喫している。
今年は良馬場ならもう少し速い決着が見込まれるが、タイトルという意味でも、レース条件という意味でも、この
高松宮記念を制してこそ
異論の挟みようのないスプリント王として君臨できると言っていいだろう。
その
高松宮記念。
阪急杯が1400mになり、
オーシャンSが重賞に昇格した06年以降の前走レース別の成績は、
阪急杯組が最多の好走馬10頭で
[3.4.3.23]。
ロードカナロアのステップとしては、この
阪急杯という選択が最適だったようにも見える。
しかし、その
阪急杯組も優勝馬にかぎると
[0.1.2.4]と勝利がなく、ここ3年は
オーシャンS組が3連勝を飾っている。ただ、後になってデータを見る際に
「例外が1頭いるけど、あの馬だから仕方ないよね」と言えるようになると、あらゆる意味で王者らしくもなってくる。
惜敗から1年を経てさらにパワーアップした今の
ロードカナロアなら、あっさりと
そんな存在になってくれそうな印象だ。