右回りですら違う雰囲気を出した馬が左回りに戻ったら!?
文/浅田知広、写真/森鷹史
難しいねえ、
混戦だねえという声があちこちから聞こえてきた今年の
桜花賞。トライアル前まで、1番人気に応える形で牝馬のオープン・重賞を勝った馬は、
コレクターアイテム(
アルテミスS)と
レッドオーヴァル(
紅梅S)の2頭だけだった。その
コレクターアイテムがその後
連敗、
レッドオーヴァルの前走・
チューリップ賞も
1番人気⑦着となれば、それだけで自然と
「混戦」という評価になってくる。
加えて、
阪神JFを5番人気で制して
2歳女王の座に就いた
ローブティサージュも、
チューリップ賞では
⑨着に敗退。結果、
阪神JFが
15番人気②着だった
クロフネサプライズが、
チューリップ賞を3番人気で制して一応の中心になった。
阪神マイルで
展開不問の好結果を出しているのだから、自力で掴んだ1番人気、と言えなくもない。しかし、なにせライバルの結果が結果だっただけに、どうしても
「押し出されての1番人気」という印象は否めなかった。
その
クロフネサプライズが、レースでも押し出されるように3コーナー手前で2番手へ。自身も少々行きたがっていたものの、中団まで馬群はほぼ一団で、決して速いペースには見えなかった。
ところが、画面に映し出された600m通過の参考タイムは34秒8で例年並み。
雨が上がって良馬場に回復こそしていたとはいえ、午後に行われた芝の3レースすべてで
ラスト1ハロンが13秒台という馬場では、普通に考えれば差し馬決着である。
そして、そんなペースに導かれるように直線で抜け出してきたのは、なんとまあ
デムーロ兄弟だった。
もっともレース内容は対称的で、
弟・C.デムーロ騎手の
アユサンは馬群のまっただ中を追走し、直線はその馬群を割っての差し。一方、
兄・M.デムーロ騎手の
レッドオーヴァルは、後方に4頭離れてバラバラと追走した中での先頭から、大外に持ち出しての追い込みだった。
レース展開を考えれば、前とさほど差のない位置にいた
アユサンよりは、離れた後方から差してきた
レッドオーヴァルの競馬だろう。
実際、直線残り200mで一瞬は馬体が並んだものの、外から一気に
レッドオーヴァルが突き抜けるか、という脚色だった。ところが、ここから根性を見せたのは
弟なのか
アユサンか。もしかしたら
レッドオーヴァルが脚を使い切ったのかもしれないが、そこからもう一度脚を使った(ように見えた)
アユサン&
C.デムーロ騎手が差し返して優勝。
ラスト1ハロンは12秒7で、他のレースのような
13秒台にこそならなかったものの、しぶとい脚を繰り出して、
新馬に続く2勝目が
G1制覇となった。
アユサンが初勝利を挙げた東京の
新馬戦は印象に残るレースで、
ラスト2ハロンが10秒8-11秒1と極めて速い上がりを楽々と差し切っていた。続く
アルテミスSは
メンバー中最速の上がり33秒5を記録はしたが、今回とは逆に、
コレクターアイテムに一気に並びかけたところで相手に勝負根性を発揮されての②着敗退。
この2戦や、前走・
チューリップ賞で先行して伸びきれなかったあたりから、
軽い馬場で一瞬の切れを武器とするタイプ……、だと思っていたのだが、どうやらまったくの
間違いだったようである。
勝因を探れば、これまで右回りでは
外にもたれるところを道中は馬群で我慢(できる枠も引いた)、そして直線では都合良く外から
レッドオーヴァルが来てくれたことも、この馬には味方したのだろう。
とはいえ、次は2歳時からしっかり結果を出していた東京コース・左回りになる。
右回りですら「なんか印象と違うぞ」という競馬を見せたアユサンが、左回りに戻ったらさてどうなるか。
今回が7番人気だっただけに、いきなりレース前から中心を担う存在にはならないだろうが、3歳牝馬路線の
混戦模様にあっさり終止符を打つような、強い競馬を見せてくれる可能性も十分にありそうだ。