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そこには、惜敗を続けていた昨秋の姿はなかった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也


先日、1000円カットの店に行って髪を切ってもらっていたら、隣の席に丸刈りの人がやってきた。

「今日はどうなさいますか?」「いちばん短くしてください」「いちばん短いと…一厘になりますが、それでよろしいですか?」「お願いします」

店員さんとのそんなやりとりを横で聞き、数分経ったら、あっという間に終わってしまった。さすがに一厘刈りだと早いなあ、と感心していたら、終わり際に店員さんがこんなことを言った。「クシはお持ちになりますか?」

その店では、カットが終わった後、クシを持ち帰るかを聞いてくる。だから、いつもと同じパターンではあったのだけれど、さすがに一厘刈りの人にそれは言わないだろうと思っていたので、虚を突かれて笑いが止まらなくなってしまった。

あの店員さんは、ついいつもの癖で言ってしまったのか。それとも、「一厘刈りでは、普通、クシは必要ないだろう。しかし、この後に髪を伸ばして使う可能性があるかもしれない。もしかしたら、このクシを別の人にあげるかもしれない。クシ・コレクターかもしれない。髪型だけでクシの必要・不必要を勝手に決めてしまって良いものか……」、そんな葛藤があった上での発言だったのか。

ホッコータルマエを見ると、ついいつもの癖で、②&③着付けの馬券を買ってしまう。それはもう、1000円カットの店員さんと似た心理と言える。

【髪を切った人にクシが必要かを聞く店員さん】=【ホッコータルマエを②&③着付けで買ってしまう自分】。それはもう、髪型がどうこうとか、ホッコータルマエの近況がどうとか、何も考えてない時の行動パターンだ。

しかし、店員さんの中に、前述したような葛藤があったとしたら、どうだろう? マニュアル通りの行動に見えて、実はそうではなく、一段上級の言動に思えてくる。

翻って、今回のホッコータルマエに対してはどうだったか。単勝では1番人気だったし、馬単のオッズでも1番人気だったから、②&③着付けで買っていた人は少なかったのだろう。

昨秋に②~③着を繰り返していた姿はもうない。圧勝を重ねた近2走(佐賀記念名古屋大賞典)を経て、一枚むけた、と判断した人が多かったようだ。結果的に、その判断は間違っていなかった。

ホッコータルマエニホンピロアワーズをマークするように進めると、直線に入って外から併せに行き、2kgの斤量差があったとはいえ、交わしてから差し返すことを許さずにゴールした。確かにそこには、惜敗を続けていた昨秋の姿はなかった

ホッコータルマエニホンピロアワーズは、今年上半期の目標がともに帝王賞のようだ。

今回は2kgの差(ニホンピロアワーズが59kg、ホッコータルマエが57kg)があり、昨秋のジャパンCダートでは1kgの差(ニホンピロアワーズが57kg、ホッコータルマエが56kg)があった斤量が、帝王賞では同じになる。果たして、その時、どんな結末が待っているか。そして、それを見越して、我々はどのような馬券を買うべきか。

今回のアンタレスSで、ホッコータルマエを②&③着付けで買って馬券をハズシた人も、そこに行き着くまでに葛藤があったのであれば、それを活かせるチャンスがきっとくるはずだ。

中には、今回はホッコータルマエ1番人気に推されていたからこそ、あえて②&③着付けの馬券を買った人もいるだろう。結果的にその姿勢は今回は失敗に終わったが、裏の裏を行く姿勢は博打においては必要でもある。今回の失敗が次に活きるかどうかは、その姿勢を貫き通せるかどうかではないだろうか。

ちなみに、冒頭で記した一厘刈りの人は、クシが必要かどうかを問われて、即座に「いりません」と返答していた。まあ、普通そうですよねぇ。

葛藤があろうとなかろうと、結果お構いなしにやってくる。それはそうなんですが、そこにいろいろな葛藤をするからこそ、楽しいとも言える。6月26日の帝王賞まで、時間はまだまだあるので、それまでいろんなシミュレーション葛藤を楽しむことにしましょう。