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レースが特殊だったのではなく、馬が規格外だった
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也


以前、『サラブレ』の編集部員があるホースマンにインタビューをした時のこと。新聞や雑誌がよく使う「過去10年データ」について、「ああいうのは、何かしら理由があってのことだと思っていますよ」と話していたそうだ。

例えば、あるレースは休み明けの馬の成績が良くない、とか、あるレースは距離を延長してきた馬の成績が良くない、とか。実際に馬を扱っている人たちからすれば、「そんなことは迷信に過ぎない」と一蹴したくなるようなことだと思われるが、そのホースマンは素直に肯定する姿勢を見せたという。

馬のすべてを把握することはできない。だからこそ、些細なことでもいいから、学べる部分があれば吸収したい。そんな思いがあったからかもしれない。データばかりを扱っているこちらとしては、恐縮しつつも、嬉しくなる話だった。

フローラSは、前走で1600m以下の距離を使われてきた馬がなかなか勝てないレースだった。

4歳牝馬特別という名称だった頃は桜花賞から転戦してきた馬が勝つケースが目立っていたが、01年にフローラSという名称になってからは、前走が1600m以下だった馬は[1.2.5.40]という成績だ(2012年まで)。勝ったのは05年のディアデラノビアだけで、②着も2頭しかいない(03年タイムウィルテル、10年アグネスワルツ)。

ちなみに、05年は②着に前走が2000m戦だったレースパイロットが入っていて、前走が1600m以下だった馬のワンツーは01年以降は起こっていない。フローラSは、軸馬という観点では、前走が1700m以上だったタイプを中心に取るべきレースなのだ。

今年は、前走が1600m以下だった馬が5頭いた。アニマトゥールイリュミナンスグッドレインボースイートサルサタガノミューチャンで、最高着順はタガノミューチャンの⑤着だった。

どうして前走が1600m以下だった馬はなかなか上位に来られないのか? 理由はよく分かりません

いや、「推測して何か適当と思われることを記せ」と言われれば、若い3歳牝馬にとって、400m以上の距離を延長されてすぐに克服できるほど東京の芝2000mは甘くない、とか言えるのだろうけれど、「じゃあ、なんで4歳牝馬特別の頃は克服できてたんだ?」とツッコまれると、答えに窮する。だから、この場合は「理由はよくわからん」が正解だろう。

理由がはっきりしないデータは信用に足りないか? いや、そんなことはないだろう。現に今年も馬券に絡んだのは前走が1800m以上の馬だったわけで、それらの馬を中心に考えなければ馬券は的中しなかった。

すべてをはっきりさせないと気が済まない人にとっては酷な話かもしれないが、時には「そういうもの」としてフワッと認識することも必要だろう。心底は納得できないことであっても、肯定する姿勢は必要でしょう。冒頭のホースマンのように。

もちろん、すべてがデータ通りに運ぶわけではない。時には覆す馬も出てくるわけで、それは今回優勝したデニムアンドルビーもそうだった。

デニムアンドルビーは前走が2000m戦だったが、それが初勝利で、前走で初勝利を挙げたばかりの馬はフローラSではなかなか勝てなかった([1.1.2.34]という成績だった)。勝ったのは11年のバウンシーチューン以来2頭目で、11年も今年も道悪馬場だったから、もしかしたらデニムアンドルビーにとっては恵みの雨だったのかもしれない。

ただ、11年は重馬場でレース上がりが37秒8とかかったもので、バウンシーチューンは道中で内ラチ沿いを走り、距離ロスを最小限にして立ち回っていた。

それに対して今回のデニムアンドルビーは、序盤を最後方に控え、3~4コーナーで大外を回って進出し、結局、33秒8の上がりを繰り出して差し切った。まったくもって、強さが際立っていたオークスは距離が400m延びるが、問題にはならないだろう。

データを覆す馬が出現した際、その内容を吟味する必要がある。レースが特殊だったのかもしれないし、馬が規格外だったのかもしれない。今回のデニムアンドルビーについては、確かに道悪馬場だったが、レース上がりは34秒2で、良馬場だった年と変わりない。あのレースぶりを見ても分かる通り、レースが特殊だったのではなく、馬が規格外だったと考えるべきだろう。

フローラS(旧・4歳牝馬特別)を1番人気で制した馬は、86年以降のオークスで[3.1.1.5]という成績だ。勝ち馬が3頭出ているが、そのうち2頭は桜花賞も1番人気で制していたメジロラモーヌ(86年)とマックスビューティ(87年)で、それらを除くと優勝馬はサンテミリオン(10年)だけになる。10年は雨中オークスで、馬場は稍重だったが……果たして今年は馬場状態がどうなるだろうか。

桜花賞組に比べれば、距離についてや東京競馬場を経験したアドバンテージを見込めるのだろう。ただ、桜花賞に比べればオークスまでの間隔は短く、中3週でさらなる状態アップを求められることになる(桜花賞からオークスは中5週)。オークスへの優先出走権を獲得した上位3頭(デニムアンドルビーエバーブロッサムブリュネット)は、ここからの4週間が勝負となりそうだ。

なお、デニムアンドルビーは前走時の馬体重が430kgで、前走時だけで言えば、今回のメンバー中で3番目に小さい馬だった。初の関東遠征で、長距離輸送をクリアできるのか、気になったのだが、馬体重を増やして(2kg増の432kg)パドックに現れた。

関西馬の中には体重を10kg以上減らしていた馬が4頭もいたが、角居厩舎の2頭(デニムアンドルビーラキシス)はどちらも減っていなかった。果たして、これは厩舎の技術なのか、それとも馬の資質によるものなのか。いずれにしても、デニムアンドルビーは小柄な見た目で判断してはいけないスケールの大きな馬ということなのだろう。