初物づくし、記録ずくめ、悲喜交々のNHKマイルCだった
文/浅田知広、写真/川井博
1強の
高松宮記念、混戦の
桜花賞、3強の
皐月賞、そして結果は別にして1強ムードの
天皇賞(春)と続いたこの春のG1戦線。今週の
NHKマイルCは1強……になりそうだった
エーシントップが単勝2.9倍という、
6戦5勝という戦績のわりには少々微妙な
ファンの支持で、どちらかといえば混戦に近いレースだっただろうか。
そして、混戦なら混戦なりに、なにか買いたくなる要素を持つ馬が上位人気に推されるもので、2番人気・
ガイヤースヴェルトは初芝の前走・
毎日杯が②着好走。続く3番人気は
レッドアリオンで、前走が
エーシントップのクビ差②着。前々走では左回りの中京で圧勝しており、東京替わりで逆転の可能性も十分に考えられた。
さらに、重賞勝ちのあるマイルに戻った
コパノリチャード、そして
朝日杯FS最先着の
ゴットフリートと、ざっと見ただけでも、それぞれなにがしかの
魅力はあった。
そんな中、
マイネルホウオウは前走・
ニュージーランドTの4番人気⑦着から、今回は34.3倍の10番人気まで人気を落としていた。前々走の
スプリングSが後の
皐月賞馬・
ロゴタイプの③着、そしてマイル戦は行き脚ひと息だった前走を除けば
[2.1.0.0]だったとはいえ、上位人気に推された各馬に比べれば
強調材料に欠けた面は否めない。
もうひと押しすれば、同じ左回りで直線の長い新潟、そして距離もマイルの
きんもくせい特別でハナ差②着はあったが、それがここにも出走する
ゴットフリートに敗れての②着である。
ただ、当時のレース内容は、長い直線の前半、残り400mあたりでいったん
ゴットフリートに交わされてから、併せ馬の形でしぶとく脚を伸ばしてハナ差の勝負。決して悪い競馬ではなかった。
しかし、そうはいっても負けは負け。そして、なにせ3勝すべてが中山・福島で、オープン好走も札幌と中山。東京コースは昨秋の
東京スポーツ杯2歳Sで⑧着敗退を喫しており、どちらかといえば
不安材料が目立っての10番人気という印象を受けた。
ところが。終わってみれば
「実は東京のほうがいいんじゃないの?」という3コーナー16番手、4コーナー14番手からの差し切りだった。
ゴットフリートが後方から伸びなく⑪着に終わり、「きんもくせい特別を見れば」とは言い難い結果ではあるのだが、
マイネルホウオウ自身としては当時を思い起こさせるレースぶり。後方からの息の長い末脚と、叩き合ってのしぶとさを、
ローカルの500万特別と同じように、この大舞台でも発揮して見せたのだった。
そして、こういった末脚勝負の競馬を見れば、そういえば父・
スズカフェニックスの初重賞制覇はこの東京マイル・
東京新聞杯だったなあ、などとも思い出す。G1勝ちの
高松宮記念など、マイル未満の距離では中団あたりにつけたり、早めに動くレースもあったが、マイル戦では基本的に直線勝負で末脚を伸ばした馬だった。
そんなことを考えると、
マイネルホウオウの
東京スポーツ杯2歳Sは単純に距離が敗因で、本質的には直線の長いコースで末脚勝負が向くタイプなのかもしれない。
仮にその通りなら、前々走では「不向きな」中山1800mで
ロゴタイプから0秒3差の③着好走。
マイネルホウオウにも、ここで
買いたくなる要素は十分にあったのだ。
デビュー10戦目にして新たな一面を見せたというよりは、そんな一面に気づかされた一戦だった、というのが正解だろか。
こうして父と同じ舞台で初重賞制覇を果たした
マイネルホウオウ。この世代が初年度産駒の父にも、
初の重賞タイトルをG1制覇という形でもたらした。
そして、鞍上の
柴田大知騎手は
平地G1初制覇に加えて
JRA通算200勝。さらには、管理する
畠山吉宏調教師も
G1初制覇と、初物づくし、記録ずくめ。10番人気という人気薄で馬券がハズレた人も多かっただろうが、そんな中で喜んだ人もまた多かった、そんな今年の
NHKマイルCだった。
馬券で喜べなかった方は来週、
マイネルホウオウが波乱にダメ押しして
キャリーオーバーになったWIN5で、そのおこぼれにあずかろうではないか。