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「勝つためにはなにが必要なのか」を見せてくれたのは偉大だった
文/安福良直、写真/稲葉訓也


これは内田博幸の勝負師魂を見せつけられたレース」と言っていいのではないだろうか。G1で②着になること4回、このままでは「悲運の名牝」と呼ばれるところだったヴィルシーナが、ついにG1の勝利を手にした。

それにしても、厳しいレースだった。

だいたい、惜敗が続いていた馬が勝つときというのは、今までの苦悩がウソのような圧勝劇を演じることが多いものだが、今回のヴィルシーナは今までと同じような苦しい戦い。

ゴールまであと100mの時点では、「マイネイサベル、やったぞ!」というレースだったし、そこから先は「ホエールキャプチャ、来た!」という感じ。「ヴィルシーナの勝ちだ」と安心できる場面はゴールまで一度もなかったが、ここはさすが内田騎手「なにがなんでも勝つ!」という強烈な意志を見せ、ハナ差の勝利をもぎ取った。

もちろん、ヴィルシーナ自身が騎手以上に頑張ったのは言うまでもないが、今回の最後のひと押しは、内田騎手の執念だと思う。なにしろ天皇賞・春ゴールドシップNHKマイルCエーシントップと、G1で2週続けて1番人気馬に乗って敗戦勝利の女神に見放されたような状況で、次に任されたのが同じような境遇のヴィルシーナ

人間、こういうときにどうすればいいのか、はとても難しい問題だが、「決して弱気にならず、パートナーの力を信じる」という答えを出したであろう内田騎手は本当に素晴らしい。

ヴィルシーナといえば、オーナーが元プロ野球選手の佐々木主浩氏で、現役時代はクローザーとして「チームが勝つこと」を何よりも優先させてきただけに、この勝利の味を深く噛みしめられていることかと思います。

レースを振り返ると、ヴィルシーナにはムダなところがまったくといっていいほどなかった。スタートを互角に切り、そこから少し仕掛けて先頭に立つ勢い。今回は確たる逃げ馬不在でスローペースが予想されていただけに、「いざとなったらハナへ行っても」という積極策は十分アリだった。

その後、アイムユアーズがハナに行ってくれたので、2番手追走の理想的な展開になった。結果的には、例年並みの1分32秒4という好タイム決着で、上がり(34秒2)も速く、ムダなことをしていては勝てないレース。自分の競馬がしっかりできたことが最大の勝因なのは間違いないだろう。

さて、そんなヴィルシーナを最後まで追い詰めた馬たちの奮闘ぶりも見逃せない。

②着のホエールキャプチャは、昨年のこのレースで勝って以降は惨敗が続いていたが、この時期がいい馬なのだろうか、最近の不振がウソのような走りを見せた。

スタートでつまづいて後方からの競馬になり、今日の流れでは苦しい展開になるところだったが、うまく先行集団の後ろで脚を溜めることができ、直線も行くところ行くところ前が開いてくれた。

最近はふた桁着順続きで、「この馬は終わってしまったのか?」と言われても仕方がないところだったが、G1になると力を出せる馬なのかもしれない。レース巧者ぶりもさすがだった。

③着のマイネイサベルも、レースの上手さで大いに盛り上げた。絶好の1番枠から好スタートを切り、終始、ヴィルシーナを見る位置で追走。直線はいったんヴィルシーナを交わして先頭に立ち、残り100mまでは「勝ったか!」という内容だった。

ヴィクトリアマイルでは、毎年、内枠の利を活かして見せ場を作る馬がいるものだが、今年はこの馬だった。近年はなかなか②着までに来ていないが、ヴィクトリアマイルでは来年以降も、内枠の馬に気をつけたいところだ。

一方、2番人気のハナズゴールは逆に内枠がアダになった感じで、直線はうまく抜け出すことができなかった。道中は少し行きたがる場面もあり、このあたりはG1経験の差が出た感じか。同じく内枠で行き場がなくなったジョワドヴィーヴルは、開き直って大外から最後はいい脚を見せた。こちらは復活の気配と言えるかも。

全体としては、レースの上手な馬が上位に来たと言うべきだが、その中で、内田騎手ヴィルシーナのコンビが「勝つためにはなにが必要なのか」を見せてくれたのは偉大だった。

内田騎手はゴール前でムチを使わず、ひたすら手綱をしごいてヴィルシーナを追っていたが、そこにもまた「勝利に対する執念」を感じた。