ハイペースが勝利への追い風となったが、鞍上の好リードも見逃せない
文/石田敏徳、写真/森鷹史
トライアルの
フローラSが終わった時点で、
「オークスはデニムアンドルビーで決まり」と思った人は多かっただろう。
かくいう
私もその一人。東京コースの3コーナー過ぎから馬群の外々を回ってまくりあげ、しかも直線の入り口では内の馬に弾かれてバランスを崩す場面もあったのに、そこからもう一度脚を使って差し切る3歳牝馬なんて初めて見た。
あの勝ちっぷりは
「時計が平凡」とか、
「桜花賞組との力関係が云々」などという懸念を吹き飛ばしてしまうぐらい
絶大なインパクトがあった。
なので
デニムアンドルビーを①着に固定した3連単をしこたま買ってレースを見ていたら、1コーナーの位置取りはなんと最後方。
内田博幸騎手によれば、
「ゲートを出てから馬が行く気を見せなかったので、無理強いして位置を取りに行くより、後ろで脚をためてジワジワ上がって行こうと思った」そうである。
ただ、
彼の思惑と異なっていたのは、進出を開始した3~4コーナーの反応が
フローラSとは違って極度に悪かったこと。その背景には
ペースの違いがあった。
もちろん馬場差も無視はできない(
フローラS当日の芝は、けっこう力の要るコンディションだった)けれど、前半1000mの通過が
63秒1というかなり緩やかなペースで流れた
フローラSに対し、
オークスの1000mの通過ラップは
59秒6。前走より3秒余りも速いペースで流れたのだから、そりゃ馬も戸惑うってものである。
それでも直線に向いてからはしぶとく伸びて③着は確保、このディープインパクト産駒が
相当な潜在能力を秘めていることは確かだが、
「今日はキャリアの浅さが出ちゃったかな。これからはもう少し、速いペースについていく練習をしないとね」と
角居勝彦調教師だった。
ここで改めて、先導役を務めた
クロフネサプライズの「暴走」についても触れておこう。
武豊騎手も指摘していたが、パトロールビデオを見ると確かに
クロフネサプライズは、1コーナーで内ラチを拒否するように外へ逃げ、2コーナーのカーブでは今度は内ラチに向かって“吠えかかる”ような格好をしている。
何が
彼女の気に障ったのかは定かではないけれど、ラチに対して敵愾心を露わにした結果として、馬が平常心を失ってしまったというわけ。そして
兄が刻んだハイペースを勝利への追い風としたのが、
武幸四郎騎手の
メイショウマンボだったのだ。
「馬がかなりイレ込んでいて、発走前の輪乗りのときにはパニックに近い精神状態だった。正直、これじゃあ今日は無理だと思った」と振り返った
武幸四郎騎手だが、いざゲートが開いてからの
メイショウマンボは鞍上の指示に従って、中団のインで末脚を温存。
「なんとか折り合いがついた」要因に、ハイペースがあげられることはいうまでもない。
さらに4コーナーまではピッタリと内を回り、直線に向いて綺麗に外へ持ち出した
鞍上の好リードも見逃せない勝因のひとつ。こうして、⑩着に敗れた
桜花賞から大きく巻き返しての
戴冠を果たした。
ちなみに、②着に敗れた
エバーブロッサムの道中の位置取りは、
メイショウマンボのちょうど外。コース取りというより枠順の差(
メイショウマンボは2枠3番、
エバーブロッサムは7枠13番)が、
勝負の明暗に直結したといえるだろう。
一方、
「思い描いていたようなレースはできた」という
丸山元気騎手の
アユサンは、距離の壁に跳ね返された格好で伸びを欠いて④着。また、⑰着と予想外の大敗を喫した
レッドオーヴァルは距離の壁もあったのだろうが、
桜花賞に比べると馬の気配が落ちて見えた。
すなわち、今年の牝馬クラシック路線の有力馬たちは、展開、枠順、距離、状態面などの要素ひとつで着順がコロコロ変わる力関係にあったわけで、
「終わってみればやっぱり“混戦”だったんだなあ」というのが率直な実感。さて、来週の
ダービーはどうだろうか?