ジョッキーの信頼とトレーナーの期待の大きさに応えてみせた
文/平松さとし、写真/稲葉訓也
2013年、
日本ダービーデー。
薄曇りの空の下で行なわれた第1レースを制したのは
C・デムーロ。
田中剛厩舎の管理馬で、生産は
社台ファーム。
ダービーに
ロゴタイプを送り込むトリオにとって、
幸先の良い幕開けとなった。
さらに勢いの増す出来事が第8レースで起きた。勝ったのはまたしても
社台ファーム生産馬で、
C.デムーロの騎乗。
ロゴタイプの父
ローエングリンの弟にあたる馬だった。
昼には恒例のダービー出場騎手紹介。また、
ウイニングチケットや
アグネスフライトといった過去のダービー馬も競馬場に姿を現し、
第80回記念ダービーへ、場内のボルテージは否が応でも上がっていった。
メーンの
ダービーを迎える頃には快晴になり、気温もグンと上昇した。
そんな中、1番人気に推されたのは
キズナだった。
皐月賞組を抑え、人気に支持されたのは、父ディープインパクトを彷彿とさせる末脚と復権を懸ける
武豊を後押しする票も入ったためだろう。
皐月賞馬の
ロゴタイプが2番人気。
朝日杯FSの覇者でもあり、唯一のG1・2勝馬が、大舞台で2番人気に甘んじた。
キズナの1番人気を誰よりも欲していたのは調教師の
佐々木晶三だ。
「過去のダービーのデータをみると、1番人気馬と2番人気馬では勝率が倍くらい違った。なんとか1番人気を死守してレースに臨みたいと思った」
少々本末転倒の感じもないが、結果的に
佐々木の願いはかなえられる。単勝は2.9倍。同3.0倍の
ロゴタイプをなんとか振り切った。
人気面では
「何とか振り切った」という表現に誤りはないだろう。しかし、実際のレースではもっともっと楽にG1ホースを退けた。
最内枠からのスタートも、
「いつもの彼の位置」(
武豊)と慌てることなく後方へ。
アポロソニックが逃げて作ったラップは5ハロン通過60秒3。決して速くはないが、
キズナの末脚を信頼する
武豊は無理に上がっていこうとはしない。一方、
ロゴタイプも絶好位で競馬をしている。
勝負どころから前との差を徐々に詰めた
ロゴタイプ。やはり、格が違うのかと思わせた。
対する
キズナは直線を向いて左前にいた馬が外へ出てきたため狭くなるシーン。その後には左右から挟まれそうになり、一瞬、ヒヤッとする場面もあった。
しかし、ここでも
ダービー4勝ジョッキーは冷静だった。押し負けることなく態勢を立て直すと、渾身の左ムチで
パートナーを鼓舞する。
「距離が少し長過ぎた」(
C.デムーロ)と言う
ロゴタイプが伸びそうで伸びずにいる横を、
皐月賞では②着だった
エピファネイアが交わしたが、その直後、さらに外から
キズナが迫ってきた。
福永の右ムチと
武豊の左ムチが交錯した刹那、
武豊が前に出た。次の瞬間、
史上初のダービー5勝ジョッキーが誕生した。
「この馬は生まれた時からオーラが違った」と言う
佐々木。
ダービーに勝つより前から
凱旋門賞に登録していたことからも、
期待の大きさがうかがい知れる。
「哲ちゃんも『ダービーを勝つのはこういう馬なのかもしれない』と言っていたんだ」
前任者であり、
佐々木のよきパートナーである
佐藤哲三の名前を出し、そうも言った。
落馬による大怪我で現在戦列を離脱している
佐藤。しかし、彼のその言葉が
「大仕事ができるという原動力になった」とは
佐々木の弁。今はまだ戦列復帰のメドすら立たない
佐藤だが、
ダービー制覇に一役買ったことは間違いない。
次なる舞台はロンシャンか……。帰ってきた
武豊とのこれからも、また注目したい。
(文中敬称略)