この後も勢いを失わず、秋のG1を大いに盛り上げてほしい
文/浅田知広、写真/川井博
今年は函館競馬場のみの4開催連続で行われている北海道の夏競馬。秋の気配も感じる中で行われる函館競馬は、札幌と函館の開催順が入れ替わる前年、96年以来のことになる。その96年に、従来のオープン特別からG3の重賞に昇格したのが現在の
エルムSの前身にあたる
シーサイドSだった。
優勝馬は
キョウトシチー。当時は
JCダートが創設されていないどころか、統一グレードもなかった時代だが、
キョウトシチーは96年暮れの
東京大賞典で今で言う「Jpn1制覇」を達成。その前後の
浦和記念と
川崎記念では、砂の女王・
ホクトベガの②着に食い込んだ。
翌年からこの時期の開催は
「シーサイド」にはない札幌競馬場になり、このレースは
エルムSに改称され、G1馬
アドマイヤドンなどが優勝馬に名を連ねた。
その後、06年からはG1に手が届かない馬が続いたものの、昨年の勝ち馬
ローマンレジェンドが同年の
東京大賞典を制覇。勝ち馬から久々に大レースの優勝馬を輩出して迎えたのが、第1回と同じ函館に戻って行われた今年の
エルムSだ。
出走メンバーは13頭。G2~G3あたりで安定勢力化している
グランドシチーや
エーシンモアオバーは4、5番人気。上位人気に推されたのは、そのまま一気にG1へ、という期待もかけられる
2連勝中の4歳馬3頭・
ブライトラインと
ダノンゴールド、そして
フリートストリートだった。
レースは札幌開催の昨年同様に、
エーシンモアオバーがハナを切る展開。直後に
フリートストリートと
ブライトライン、これらを前に見て
ダノンゴールドと続いていった。
3コーナーで
エーシンモアオバーがややリードを開きにかかったが、少々タイミングが早かろうと、ここで行かせてしまっては簡単には捕らえられなくなる馬場状態。
フリートストリートは鞍上・
内田博幸騎手の手が激しく動きながらもなんとか前に食らいつくと同時に、手応えには余裕があった
ブライトラインを
エーシンモアオバーの直後に封じ込めたのだった。ここで4番手以下とは少々差がつき、勝負は前3頭の争いに絞られた。
そして直線。
ブライトラインが外に立て直している間に、
フリートストリートは
エーシンモアオバーに並びかけ、4歳馬2頭の争いは決着。あとは前の
エーシンモアオバーをきっちり交わしてゴールを駆け抜けるのみ。位置取りとしては前も後ろも気になる立場だったが、見事に両馬を抑え込んで
レコードタイムでの重賞初制覇となった。
これで条件戦から
3連勝となった
フリートストリート。ここから一気にG1制覇へ……、と今度こそ期待してもいいのだろうか。そもそも「
フリートストリート」という名前が、強いんだかどうだかよくわからなかった
フリートストリートダンサー(03年の
JCダートで、
アドマイヤドンを下して優勝)を思い起こさせるのだが、それはさておくとして。
この馬自身、昨年は
新馬、
500万、そしてオープンの
ヒヤシンスSと
無傷の3連勝。このときも、将来のG1候補と考えた人は多かったに違いない。しかし、その後は休養もあったとはいえ、
ジャパンダートダービー⑨着から
⑧⑨⑨着と4連続着外に終わってしまったのだった。
そんな流れで降級して迎えたこの夏。初戦
②着の後、これでキャリア2度目の
3連勝だ。今回もどうやら、ここでひと息入れて秋の大レースに備えるとのこと。
同期の
ホッコータルマエのほか、
グレープブランデーや
ニホンピロアワーズ、
ローマンレジェンドなどが待ち受けるダートG1戦線。強敵を向こうにまわして勝利を手にするのは、「
フリートストリートダンサー」が勝った
JCダートか、それとも「函館のこのレース」を勝った
キョウトシチーの
東京大賞典か。
そんな可能性を十分に感じさせる、力強いレース内容だったのは確かである。今回の
3連勝後は休養を挟んでも勢いを失わず、秋のG1を大いに盛り上げてほしい1頭だ。