並みの馬ではできない芸当が披露された
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
掲示板に載った5頭が
0秒1差で、ハンデ戦のような接戦になったが、勝ち馬のレースぶりは
「他馬をひと飲み」という感じだった。いや、
「他馬をひと呑み」の方が正しいか。一気に呑みこんでしまった。
ヴェルデグリーンは前走の
新潟大賞典が初の重賞で、ハンデ54kgで⑩着に敗れた。当時は中間に順調さを欠いた面もあったようだが、それから
4ヶ月半ぶりで
別定のG2に変わり、斤量56kgで未知の距離に替わって、これだけの変わり身を見せるとは……いったいどれだけの人が想像できただろうか。
ヴェルデグリーンは
父ジャングルポケット、
母の父スペシャルウィークという配合で、この2頭は決して
中山向きとは言えない馬だった。どちらも
皐月賞は③着で、
ジャングルポケットは中山では未勝利、
スペシャルウィークも中山ではG1タイトルを手に入れられなかった。
両馬とも
ダービー馬で、その産駒たちも
広いコースの方が向いている印象がある。
ジャングルポケットの産駒で中山の重賞を勝ったのは2頭だけで(
07年フェアリーS・
ルルパンブルー、
11年AJCC・
トーセンジョーダン)、
スペシャルウィークの産駒も2頭だけだ(
05年フラワーC・
シーザリオ、
10年京成杯AH・
ファイアーフロート)。
ジャングルポケットの産駒も、
スペシャルウィークの産駒も、
広いコースをのびのびと走った時に真価を発揮する。小回りコースで
小脚を要求されると、器用さの面で劣り、突き抜けられないケースが目立つ。この認識は、今回の
オールカマー後においても変わりはない。
ヴェルデグリーンの凄いところは、
小回りの中山で
広いコース向きの走りを実践し、他馬をまとめて面倒みたことだろう。しかも、これはハンデ戦ではなく、
別定のG2だ。
ダノンバラードとは斤量が1kg差で、
メイショウナルトや
サトノアポロとは同斤量。それでいて、後方追走から終始外を回って差し切るのだから、
並みの馬ではなかったのだ。
今回のレースぶりを見て、父の
ジャングルポケットでもなく、母の父の
スペシャルウィークでもなく、
祖母のウメノファイバーのことを思い出した人もいるだろう。
ウメノファイバーは
99年のオークス馬で、重賞3勝をすべて
東京競馬場で挙げている。
オークスでは、早め先頭から粘り込みを図った
トゥザヴィクトリーを大外一気でねじ伏せた。今回の
ヴェルデグリーンの末脚は、あの時の
ウメノファイバーも彷彿とさせた。
おそらく、今秋の
中山の馬場が例年とは多少異なることも影響を与えたのだろう。今年は、例年よりも時計が少し掛かり、レースによっては
差しがよく届く。事実、
京成杯AH(
エクセラントカーヴ)も
セントライト記念(
ユールシンギング)も、差し決着になった。
流れや馬場がマッチした面もあるのだろう。しかし、それでも、
中山芝で
33秒台の上がり(33秒6)で
G2を制した事実は変わらない。今回の結果をフロック視する向きもあるかもしれないが、
ヴェルデグリーンが広いコースに替わっても評価を下げるべき馬ではないことは前述の通りだ。
ジャングルポケットの産駒にしても、
スペシャルウィークの産駒にしても、
中距離以上の中山芝重賞を制した馬は、後に
G1ホースとなっている。
相当なポテンシャルがある馬でないとできない芸当であることは覚えておきたい。
戦前は、
菊花賞という大目標が明確に存在する
神戸新聞杯に対して、
オールカマーはどこへ向かう馬たちの戦いなのか、判然としない印象があった。ところが、終わってみれば、
新星が誕生したのはこちらの方で、面白味が増したのは古馬戦線とも言えそうだ。
ヴェルデグリーンは、サマー2000シリーズを戦ってきた馬とは異なり、夏季を休養に充てていたので
余力も十分に残されているだろう。今回の反動がなければ、次走以降も決して侮れない存在になるはずだ。