歴史的名馬の残り少ない走りを心に刻みつつ見届けたい
文/浅田知広、写真/森鷹史
重賞、しかもG1で単勝1倍台前半ともなると、実績的に一枚も二枚も上と皆が納得する成績を収めている馬ばかり。馬名を見ただけで大して考えもせず
「これは勝つでしょ」と思ってしまうくらいのものだ。
今回の
ロードカナロアは単勝1.3倍。1.4倍だった
セントウルSで②着に敗れはしたものの、休養明けをひと叩きされ、今度は定量57キロ。また、昨秋以降は前哨戦よりも本番でより強い競馬をしている印象も……、などとごちゃごちゃ考えるまでもなく
「これは勝つでしょ」と思っていた方も多いに違いない。
しかし、そんなところに
落とし穴があったりするのが
競馬の怖い部分でもある。もちろん、戦績からは負ける可能性が考えづらいからこその1.3倍。なにかないかと
あら探しをすれば、国内スプリントG1・3勝(該当馬なし)や、
スプリンターズS連覇(
サクラバクシンオーのみ)が可能なのかということがまず頭に浮かぶ。
スプリンターズSがG1に昇格したのが90年、そして
高松宮杯(当時)は96年。その96年以降、古馬マイルG1では
タイキシャトルと
ダイワメジャーが秋→春→秋の3連覇を記録しているが、どうもスプリント路線は
目に見えないなにかがあるような気もしてくる。とはいえ、そんなものはやっぱり
「あら探し」に過ぎないよなあ、という単勝1.3倍だ。
ところが、である。もうひとつの焦点だった先行争いに目が行ってしまったり、
ロードカナロアに注目していても同枠・
サドンストームの陰に隠れて見えづらかったが、なんとスタートでちょっとした
出遅れ。二の脚速く好位の直後こそキープしたものの、それはそれで決して遅くはない流れの中で前半から脚を使ってしまったとも言え、少々
雲行きが怪しいレース前半だった。
そんな事件もありつつ迎えた4コーナー。
天皇賞の
ゴールドシップ(⑤着)って何倍だったっけなあ(同じく1.3倍だった)などと考えはじめ、ややもたつき気味だった直線坂下では
「ここから前半のロスが響くんだよね」。もう単勝1.3倍への信頼感はどこへやら、つい単勝5倍の1番人気くらいの感覚で見てしまった。
しかし、ここからがさすが
世界のロードカナロア、である。
前半の
ロスが響くなんてとんでもない、急坂にかかるとエンジンに火が入り、逆にそのまま3馬身くらいは突き抜けそうな末脚を繰り出したのだ。結果的に②着
ハクサンムーンとは4分の3馬身差だったが、文句なしに
王者の走りを披露してくれた。
これでG1・5連勝となった
ロードカナロア。先にも触れた
スプリンターズS連覇や、国内スプリントG1・3連覇も特筆ものなら、間に挟んだ
香港スプリント制覇も歴史的な偉業である。
さらに、思わず
「ついでに」と書きそうになる
安田記念でマイルG1も制覇。年内引退が決定しているそうだが、ここからさらにタイトルを重ねていくことになるのだろうか。
外野から勝手な意見を言わせてもらえば、ぜひ
秋の天皇賞で中距離路線の一線級との対決を見たいものだ。ただ、
安田記念を
「ついで」ではなくす、
マイルCSで
春秋スプリント・マイルG1完全制覇という大記録への挑戦もまた夢があり、マイルと言えば今度は
香港マイルで昨年同様の走りも見てみたい。
もちろん
香港スプリント連覇でも良いのだが、すでに前例のない域に脚を踏み入れている
ロードカナロアにとって、今後はなにがあっても
絶対に超えられないような記録を打ち立てていく戦いになる。どういった選択をするにせよ、そんな
歴史的名馬の残り少ない走りを心に刻みつつ見届けたいものだ。