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史上初となる連覇を達成した女王の地力は確かなもの
文/石田敏徳、写真/森鷹史


わが国初の「国際招待競走」として、1981年に創設されたジャパンCだが、今年のレースに参戦してきた外国馬はわずか3頭しかいなかった。3頭という外国馬の参戦頭数は、ディープインパクトが優勝した2006年(2頭)に次ぐ少なさ。

ただし、G1を7勝もしていた世界的名牝ウィジャボードという“目玉”が存在した06年に対し、今年の3頭はいかにも小粒で、外国馬の存在感がこれほど薄いジャパンCは創設33回目を迎えたレース史上でも初めてだった。

背景には複合的な要因を指摘できる。そもそも「ジャパンCを制した外国馬」は05年のアルカセット(英国)を最後に途絶えており、07年以降は③着以内も日本馬が独占する状況が続いている。

その間、09年のコンデュイット(ブリーダーズCターフ)や11年のデインドリーム(凱旋門賞)など、大物と呼べる外国馬の参戦がなかったわけではないが、着実なレベルアップを果たしたうえ、ホームの利もある日本馬の牙城は崩せなかった。

そんな結果が積み重なっていくうち、「日本に遠征しても勝ち目は薄い」というイメージが世界のホースマンの間に広まったこと、つまり日本馬の強さが知れ渡ったことも理由のひとつである。

まして景気の低迷により、外国と日本を結ぶ直行の貨物便は往時に比べると減便、もしくは廃止(かつては一大勢力を占めていた南半球勢の参戦が途絶えたのは、直行の貨物便が廃止された影響が大きいとのこと)されており、日本は島国ゆえに検疫の条件も極めて厳しい

世界の強豪がジャパンCの参戦には二の足を踏み、しかしブリーダーズC香港国際競走に矛先を向けるのは思えば無理のない話なのだ。

かつての輝きを取り戻すため、先のブリーダーズC香港国際競走のように複数のカテゴリーのG1を同日に施行すれば外国馬も参戦しやすくなるのではないかとの声をよく聞くけれど、そのためには前哨戦的な位置づけの重賞も数週間前の同時期にまとめて移設する必要があり、これではトータルの売り上げが被るダメージが大きくなりすぎてしまう。

それより、現在も実施されている外国馬対象の褒賞金を劇的に増額する(レースの賞金自体を増額すると、今度は有馬記念の空洞化を招きかねない)とかのやり方のほうが現実的かつ効果的といえるだろう。いずれにしても国際色の乏しい、「普通のG1」に成り下がりつつあるジャパンCのこれ以上の地盤沈下を防ぐために、何か思い切った手を打つべき時期にきていることは確かだ。

さて、前置きが長くなってしまったけれど、今年のレース。大物と呼べる外国馬ばかりでなく、今年の出走馬には逃げ馬がまったく見当たらなかった。

どの馬が先手を取るにしてもスローの瞬発力勝負は必至。ハイペースの天皇賞でさえ折り合いを欠く面が見られたジェンティルドンナは、初コンビを組むムーア騎手とうまく折り合って今度は脚を溜められるのか、また、瞬発力よりも持久力に長けたゴールドシップは、スローな流れにどう対抗していくのか──と、ここまでは誰でも考える。私も考えた。

そして、「不安要素が一番少ないのはエイシンフラッシュじゃないの?」という結論に達した。しかしまさかまさか、そのエイシンフラッシュが押し出されて先手を奪わされる羽目になるとは夢にも思わなかった。

「この馬、スタートが上手なんや。だけど(ゲートを)出てすぐに(手綱を)引っ張るとリズムを乱してしまうタイプ。それを乗り役も分かっているから、ああいう形になってしまった。何か1、2頭、行ってくれる馬がいると思っていたんだけど…」と苦渋の表情で振り返ったのは藤原英昭調教師

レースは当然のごとくスローペースになり、それも中盤は12秒台後半のラップが立て続けに刻まれるという、ある意味、特殊な流れ(1600mの通過ラップは1分40秒4ですよ!)になった。

デビュー以来、一度も逃げたことがなかったエイシンフラッシュは勝手の異なるレースに戸惑ったのだろう、先導役を務めただけに終わり⑩着に大敗。もっと深刻だったのはゴールドシップで、行き脚がつかず最後方から進んだ序盤はともかく、勝負どころから直線にかけても“脚を使う”場面がまったくないまま、⑮着に沈没してしまった。

「ペースが落ち着いてしまったので、3コーナーから仕掛けて上がっていこうとしたが、馬が全然動いてくれなかった」とは内田博幸騎手の弁。一方の須貝尚介調教師によれば「レース後、すぐに息が入っていた」とのこと。闘志のスイッチがまったくオンにならなかったわけで、これはちょっと心配だ。

それだけになおさら光ったのがジェンティルドンナの精神力だった。スムーズに、とまではいえないまでも好位で折り合って脚を溜め、身上の瞬発力を存分に発揮。やや早めに先頭へ躍り出たぶん、やはり牝馬ならではのキレ味を繰り出して猛追をかけてきたデニムアンドルビーに最後は詰め寄られたものの、そこでもうひと踏ん張りしてこれを凌ぎきり、ジャパンC史上初めてとなる連覇を達成した。

「返し馬では今まで見たことがないぐらい、軽い、落ち着いた走りをしていました。ゲートが開いてからは闘志溢れる走りでしたが、それをジョッキーが何とかなだめて、勝ちに行って、ゴールまでもたせてくれた」石坂正調教師ムーア騎手のエスコートを絶賛。周囲に巻き起こした波紋は大きかった今回の乗り替わりだが、こうしてキッチリ、最高の結果を出したのだから、その手腕はやはり素直に称えたい。

先にも書いたようにある意味、特殊なレースとなっただけに、上位馬の着順を額面通りに受け取れない面もあるけれど、そんな流れにもソツなく対応して善戦止まりの連鎖にピリオドを打った女王の地力は確かなもの

気になる今後については「このレースを勝って一服する、というビジョン通りの結果を出してくれたので、ここで一息入れて来年に備えることになると思います。(来年の計画は)これから練りますが、春はやはり、ドバイに行くことになるでしょうね」とのことである。