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これからいかにも「複数のG1を制した馬」に名を連ねていきそう
文/浅田知広、写真/稲葉訓也


国際招待競走としては今年が最後になるジャパンCダート。来年からは国際招待を取りやめ、中京競馬場のダート1800mに舞台を移して「チャンピオンズC」として行われる。

このニュースを聞いたときに、私はちょっと勘違い。「せっかくアメリカ馬が参戦しやすい左回りの中京開催になるのに、国際レースじゃなくしてしまうのか」と。もちろん今や中央競馬の全平地重賞は国際競走で、単に招待ではなくなるだけ。自腹で来る馬がどれほどいるかはわからないが、外国馬の参加資格までなくなるわけではない。

ともあれ、招待競走だったこれまでも外国馬の優勝は03年のフリートストリートダンサー1頭で、10~12年は3年連続で日本馬同士の争い。最終年の今年はパンツオンファイアの参戦こそあったものの、国際招待としては成功したとは言い難いレースだった。

しかしその一方で、単に秋のダートG1としてみれば成功だったと言えるのではないだろうか。

第1回のウイングアローにはじまり、クロフネカネヒキリヴァーミリアンなど。阪神開催になってからもエスポワールシチートランセンド故障に泣いたアロンダイト、そして昨年のニホンピロアワーズが現時点でG1・1勝馬だが、それ以外の日本調教馬は複数のG1を制した馬ばかりが優勝馬に名を連ねている。

「ジャパンCダート」としては最後になる今年も、G1・3勝を挙げたホッコータルマエを筆頭に、G1馬9頭が顔をそろえた。ただ、優勝馬には複数のG1を制した馬が多いといっても、ここで勝つのがG1馬とはかぎらない。中には04年のタイムパラドックスや、10年のトランセンドのように、ここを勝った後にG1タイトルを重ねていく馬もいる。

今年、そんな出世コースに乗ってきたのはベルシャザールだった。もともとは芝で11年のスプリングS②着、そしてダービーでは前2頭に離されたとはいえ、オルフェーヴルの③着に入った実績馬である。

その後、ノドの手術骨折と順調さを欠いてしまったが、今年5月に約1年2ヵ月の休養から復帰するとダートに転じて[3.1.1.0]。前走の武蔵野Sでは初の重賞タイトルも手中にして、再びG1の舞台に乗り込んできた。

レースはエスポワールシチーの先導で、1000mの通過タイムは、阪神で行われた6回の中ではもっとも遅い61秒6。先頭から最後方まで馬群はほぼ一団。そして2番手のホッコータルマエや、3番手のニホンピロアワーズは行きたがるのをなだめながらの追走で、タイム表示を見なくても、いかにもスローペースという競馬である。

そんな中、ベルシャザールはスタートで少々の出遅れを喫してしまい、後方からの競馬を強いられた。阪神でのジャパンCダートは、1コーナー5番手以内の馬しか勝っていない上に、流れが落ち着いてしまったとあれば、常識的にはここで勝負あり。先行馬が勝って②~③着あたりに差し馬という、過去5年で4回も見た競馬の「②~③着あたり」候補が精一杯の展開だ。

その後のレース運びも、外めの12番枠に加えて団子状態では馬群から追い上げることもかなわず、3コーナーあたりから大外を通って徐々に前へと進出。これでもし負けようものなら、出遅れた上に早めに脚を使い、さらに大外で距離損を喫してと、いったいなにをやっているんだ、という話である。

しかし、ベルシャザールはそんな三重苦もなんのその。直線もバテることなく持ち前の切れる末脚を繰り出し、並み居るG1馬を退けて堂々のG1初制覇を達成したのだった。

4コーナーから直線だけを見れば、③着のホッコータルマエは昨年同様に先頭に押し出されるのが早かったとか、②着のワンダーアキュートテスタマッタの外に持ち出すわずかなロスが最後のクビ差に響いたとか、そんなベルシャザールにとっての幸運もあるにはあった。ただ、そこまでの過程が過程だけに、とてもではないが、そこだけを切り取って恵まれたなどとは言えない勝利だ。

これでダートは6戦4勝、そして重賞連覇でG1奪取。これからいかにも「複数のG1を制した馬」に名を連ねていきそうな戦績である。芝ではいったん挫折を味わったこの馬が、これから新たなステージでどんな偉業を達成してくれるのか。芝でも走れるダートの実力馬というと、目に浮かぶのはもちろん、世界最高峰の「国際招待競走」ドバイワールドカップだ。