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ダイヤの原石がゴロゴロ、今後の成長から目が離せそうにない
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/川井博


メンバーが顔を揃えた時から阪神JF史上に残る名勝負になる、そういう予感はあった。しかし、いろいろな意味でその上を行く第65回阪神JFとなった。

圧倒的な支持を受けたのは新潟2歳Sを驚異の末脚で制したハープスター。単勝支持率は47.8パーセント。誰もがその末脚の切れ味を高く評価した。そして、多くのファンの期待通りの末脚を見せてくれたのだが…結果だけがついてこなかった。

ゲートは前走ほど悪くなく、ハミの受け方も悪くはなかった。ただ、前半3ハロン34秒2と速くなったことで隊列は縦長に。その後方5番手からの追走となったために、川田騎手の視覚的にはターゲットがとらえにくくなったのだろう。そこに迷いが生じた、と思う。

おそらく松田博調教師と同じ「直線は外を回す」つもりでいたことだろう。しかし、3コーナー過ぎから外をグランシェリーに被され、ハープスターが直線を向いた頃には2番人気のホウライアキコは坂の登りで先頭に立とうかという勢い。当初のプランは崩れ、残された選択肢は内から馬群をさばく以外になくなっていた。

他馬に気を遣いながらトップスピードのサラブレッドを操ることは難しい。実際に新潟2歳Sのようなスムーズな加速は許されなかった。それでも坂を登り切ってからはフォーエバーモアレッドリヴェールが止まって見えるような勢いで差を詰め、ゴール板を駆け抜けた時は文句なしに先頭に突き抜けていたのだが…ゴールを通過する瞬間のみ、レッドのハナがハープの前にあった。

「素直に直線は外に出していればよかった。こういう負け方は悔いが残るからな。きょうのレースはすべてにおいて中途半端だ」松田博調教師は顔を真っ赤にして、言葉を吐き捨てた。

対照的に川田騎手は顔をこわばらせながら、「3ヵ月半ぶりの競馬で馬はよくがんばってくれました。それだけに結果を出せずに申し訳ない」と絞り出すのがやっとといった感じ。「オーナーサイドから『鞍上を外国人騎手に』と言われても、この結果ではかばいようがない」というトレーナーの注文は、直接言われるまでもなく、自らがいちばんよく理解しているのだろう。

ただ、敗戦の中の数少ない収穫があるとすれば、のんびりした気性でも実戦に行けば同厩の偉大な先輩・ブエナビスタばりに豹変すること、そして、「やっぱり競走馬だよな。レースが近づけば自分で体をつくる」(松田博調教師)ということが判明したこと。実力は衆目の知るとおり。来春もハープスター牝馬クラシックの中心にいるのは間違いないだろう。

ハープの事を長々と書いたが、勝って歴史に名前を残したのはレッドリヴェールの方。札幌2歳S以来で馬体もマイナス8キロ。誰の目にも細く映ったが、この小さな馬体には肉食獣並みの闘争心並はずれた頭脳が備わっているのだろう。

ゴール前での3頭併せの形になった時は劣勢に映ったが、ゴールラインの上を通過するその瞬間を狙ったかのようにグッと首を伸ばしてG1のタイトルをもぎ取った。少々例えは古いが、その様は99年の有馬記念を制したグラスワンダーのよう。

ハナ差②着のスペシャルウィーク&武豊騎手が勝利を確信してウイニングランをしてしまったが、グラスが自らの意思でグッとゴールの瞬間だけ不自然に首を伸ばして勝敗をひっくり返した…あのレースを彷彿とさせる。

「馬の力と根性のハナ差だったと思います」戸崎騎手レッド非凡な勝負根性を絶賛すれば、香港遠征のトレーナーに代わって見守った北村助手「札幌2歳Sの不良馬場の前残りのペースを差すように根性がある。最後の粘りがいい」と口を揃える。

これで桜花賞の最有力候補となったレッドリヴェール。線の細い馬だけに調整の難しさはついて回るだろうが、この中98日のG1を制したことで選択肢はグッと広がったと言えるだろう。ここからぶっつけで本番に向かっても何の不利もない、ということを証明してみせたのだから。

北村助手から「桜花賞だけと言わず、桜もオークスも、秋華賞に向けても調整をがんばっていきたい」“三冠”すら意識させるコメントが出てきたのも無理はないだろう。

③着のフォーエバーモアは早めに押し出されて先頭に立ち、この2頭のターゲットになってしまったのが惜しまれる。ただ、蛯名騎手「十分やれる。初めての右回りでこのメンバー相手にやれたのだから上出来」と手ごたえをつかんだよう。

直前の長距離輸送を跳ね返したのも陣営にとっては心強いことだろう。前の2頭との差はわずかにハナ+クビ。立ち回りのうまさにはセンスを感じさせるし、来年への希望が広がったと言えるだろう。

函館2歳S覇者のクリスマスは栗東に滞在しながらマイナス18キロでの出走。最後の末脚はハープと並ぶ上がり3ハロン33秒6と最速タイとお見事だったが、やはり調整面での難しさも感じさせた。今後は馬体、精神面の成長がカギとなるだろう。

2番人気のホウライアキコはジワッと好位に控えられたものの、直線は余力を無くして⑦着。「レースのたびにテンションが上がっている」和田騎手が指摘したように、徐々に気難しさが増している。このあたりが父ヨハネスブルグの特徴と限界なのかもしれない。

今年の牝馬の2歳世代はハープスター1強と見られていたが、このレースの結果を見てのとおり。超のつくハイレベルな上に、ダイヤの原石がゴロゴロいるといった状況が明らかになった。ウオッカダイワスカーレット07年牝馬クラシックのよう「住み分け」が成される可能性は大いにあるだろう。

牡馬を制圧し、世界の舞台へーそれがレッドリヴェールになるのか、ハープスターになるのか、それとも…。この先も若き乙女たちの成長から目が離せそうにない。