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初芝もまったく問題にしないほど能力の器はデカかった
文/石田敏徳、写真/川井博


京王杯2歳Sの覇者カラダレジェンド東京スポーツ杯2歳Sを制したイスラボニータがともに参戦を見合わせた結果、牡馬の重賞ウイナーが1頭もいないという異例のメンバー構成によって争われた今年の朝日杯FS

レースの前に競馬友達との間で議論(?)になったのは「もしプレイアンドリアルかベルカントが勝ったら、JRA賞の最優秀2歳牡馬はどうなるの?」ということだった。

本稿の読者には釈迦に説法だろうが、公営所属のプレイアンドリアル、牝馬のベルカントはいずれも、JRA賞・最優秀2歳牡馬部門の受賞資格を持たない馬。従ってどちらかが勝った場合は、朝日杯FSの優勝馬が半ば自動的に最優秀2歳牡馬とされてきたこれまでの慣習がついに覆ることになる。ならばいったいどの馬が選ばれるのか?

「どうせラジニケ(ラジオNIKKEI杯2歳S)の勝ち馬でしょ」というヤツがいれば、「ラジニケの格付けはあくまでもG3なんだから東スポ杯のイスラボニータだって同格。それならG2の京王杯2歳Sを無敗で制したカラダレジェンドが選ばれなきゃおかしい」と指摘する友達もいた。

しかしそもそも“格重視”ということなら、18日に行われる全日本2歳優駿(=Jpn1)を中央所属馬が制した場合は当然、その馬が選ばれるべき──とかなんとか、仲間内で盛り上がっていたのだが、終わってみればその全日本2歳優駿にエントリーはしたものの、出走は叶いそうにない(優先出走順位は補欠2位だった)とみて朝日杯FSに矛先を転じてきたアジアエクスプレスが堂々、無傷の戴冠劇を演じたという次第である。

早速、レースを振り返ってみよう。大方の予想通り、先手を奪ったのはベルカントだった。スタートを決めて難なく単騎逃げの形に持ち込んだ道中だが、刻んだラップは35秒1-46秒8-58秒6とやや速め。「それなりに息は入っていたけれど、マイルは少し長いのかな」とはレース後の武豊騎手で、いかにもスプリンターらしい散り方(⑩着)だったといえるだろう。

一方、1、2番人気の支持を裏切ったアトム(⑤着)とプレイアンドリアル(⑦着)の敗因は、緩みなく流れたペースに“乗れなかった”ことに尽きる。

スタートの直後、馬群のゴチャつきに巻き込まれた影響もあったのか、アトムは少し掛かり気味に好位のインを追走。プレイアンドリアル「最初のコーナーに入るとき、前走時より馬が気負ってハミを噛んでいた」(柴田大知騎手)そうで、ともに消耗度が高かった道中の運びが末脚の威力に影響を及ぼした格好だ。

そんな2頭に対し、ゆっくりめのスタートを切ったアジアエクスプレスは、アトムを前に見る形で後方の内ラチ沿いを追走。初めて経験する芝もさることながら、「大きな馬なので(3~4コーナーの)坂を下るときに少し戸惑っていた」ムーア騎手だが、勝負どころで外へ持ち出した鞍上がゴーサインを送ると鋭くこれに反応、先に抜け出したショウナンアチーヴウインフルブルームを一気にとらえてゴールを駆け抜けた。

ちなみに35秒3という自身の上がりタイムは出走馬中最速の数字。新馬オキザリス賞(ともにダート1600m)の勝ちっぷりを見れば、スケールの大きさは一目瞭然としていたが、初めての芝もまったく問題にしないほど能力の器はデカかったのだ。

ただしムーア騎手にいわせれば「ダートに比べると(芝の走りは)決して上手ではない」そうで、実際にというべきか、今回の朝日杯FSの勝ちタイム(1分34秒7)はスローで流れた前日の500万のひいらぎ賞(1分34秒2)よりも遅かった。

もちろんこれは、ひいらぎ賞を楽勝したミッキーアイル相当なポテンシャルを秘めていることの証しでもあるのだが、反面、「ならば“ダートのアジアエクスプレス”はいったいどんだけ強いのか?」との興味も湧く。

全日本2歳優駿への出走が叶っていれば、おそらくぶっちぎりの勝利を飾っていたはずで、それはそれで見てみたかった気もする。

ともあれ、今後の進路については「この勝利で選択肢が広がりましたからね。オーナーと相談しながらゆっくり考えます」と明言は避けた手塚貴久調教師。ダート2戦2勝、芝1戦1勝という空前の戦績で頂点へ駆け上がった無敗の2歳王者は来春、いったい“どこ”へ向かって突き進んでいくのだろうか?