橋口調教師のダービー制覇を願わずにはいられない
文/編集部(M)、写真/森鷹史
ルメール騎手が乗ると
最後の伸びが違うなあ、と感じることが多い。
武蔵野S→
JCダートと連勝した
ベルシャザールは、以前は先行抜け出しでの好走が多かったが、
ルメール騎手が騎乗した今年の2戦は道中で脚を溜め、最後に差し切っている。22日(日)の
師走Sでも、
ルメール騎手は
オメガスカイツリーに騎乗して、ビックリするような末脚を披露した(②着)。
他のジョッキーが騎乗した時とは違って、
最後に急激に伸びてくる気がするのだが、そんな印象はないですか? なんと表現したらいいのか、
わき腹をくすぐられた時に飛び上がるような、そんな動きにすら見える。
今回の
ラジオNIKKEI杯2歳Sも、直線で一度は
アズマシャトルが抜け出し、同馬の勢いがあったので勝負あったかと思ったが、そこから
ルメール騎手が騎乗した
ワンアンドオンリーがグイグイと伸びてきた。思わず
「差し切れ!」と叫んだが、そこまで声援を送る必要がないほどに最後は差が付いた(1馬身1/4差)。最後の伸び方が他馬とは全然違った。
ルメール騎手は、ここを押すと馬が伸びるという
スイッチを知ってるんじゃなかろうか。人間にも、くすぐられると弱い場所があるわけで、馬にそれがないとは限らないでしょう。いや、もちろん、真相は馬に聞いてみないとわからない。
「ダメだって言ってるのに、ルメールさん、あそこ押すんだもん」と話す馬もいると私は思ってますが(笑)。
今回優勝した
ワンアンドオンリーは、前走の
東スポ杯2歳Sが⑥着だったが、内伸び馬場のレコード決着で、外から
33秒7の上がりを使っていた。だから、今回になって急激に切れる脚を使ったわけではなく、元々、
鋭い脚を持つ馬だったが、それにしても見事な末脚だった。
2014年の牡馬クラシックへ向けて、名乗りを上げる勝利だったと言える。
ワンアンドオンリーは、これまでの4連対を
京都&阪神で記録していて、その2場以外では⑫⑥着。⑫着が
小倉、⑥着が
東京で、
関西圏以外への輸送が今後の課題として取り上げられるのかもしれないが、その2戦の敗因は
別の理由という気もしている。
東スポ杯2歳Sは、前述した通り、馬場や展開が向かなかったし、小倉でのデビュー戦も、
東スポ杯2歳S同様、
1800m戦だった。
ワンアンドオンリーはこれまでの6戦が、1600mで[1.1.0.0]、1800mで[0.1.0.2]、2000mで1戦1勝だ。
今回は初の2000m戦で、母の
ヴァーチュは1600m以下で活躍した馬だったから、距離が課題になると思われたが、問題なくクリアしてみせた。やはり
ハーツクライの産駒は距離が延びても問題ないし、
根幹距離が合うのだろう。
ハーツクライ産駒は今回の勝利で、JRAの芝重賞で12勝目となったが、
距離別の成績は次のようになっている。
【ハーツクライ産駒のJRA芝重賞成績】
| 距離 |
着別度数 |
| 1200m |
[1.0.1.8] |
| 1400m |
[0.0.0.4] |
| 1600m |
[2.2.2.23] |
| 1800m |
[0.4.2.15] |
| 2000m |
[5.2.3.23] |
| 2200m |
[0.1.1.7] |
| 2400m |
[2.3.1.12] |
| 2500m |
[0.4.0.6] |
| 3000m |
[1.1.0.3] |
| 3200m |
[0.0.1.3] |
| 3400m |
[1.1.0.1] |
いわゆる
根幹距離である1200m、1600m、2000m、2400mで勝ち鞍がある一方、
非根幹距離ではほとんど勝っていない。
ハーツクライは、中途半端な距離ではなく、
王道を行く血統だと言える。
ワンアンドオンリーは今回の勝利で、多頭数の小回りコースでも問題ないことを証明した。2014年の牡馬クラシックへ向けては、このまま
根幹距離を進んで行けば人気に応える走りを見せてくれるのではないか。中山芝2000mでの
皐月賞でも、東京芝2400mでの
ダービーでも、好戦する力はあるはずだ。
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橋口調教師は、悲願の
ダービー制覇を向けて、一歩前進したと言えるのだろう。96年の
ダンスインザダーク、04年の
ハーツクライ、09年の
リーチザクラウン、10年の
ローズキングダムと、これまでに4度の
②着があるものの
ダービー制覇には手が届いていないトップトレーナーが、ついに悲願を成し遂げるか。
一度でも取材をさせてもらったことがある人は、おそらく誰もが
橋口調教師の
ダービー制覇を願っていることだろう。
ワンアンドオンリーは、今後は
「ダービーから逆算して出走させていく」とのこと。文字通り、同馬が
「唯一無二の」存在になれば、これほど素晴らしいことはない。
気になるのは、今後の
鞍上だろうか。
ルメール騎手は、例年、秋から年末までと年明けから2月初旬までを日本で騎乗し、春のクラシックシーズンは不在だ。2014年も同様のスケジュールとなれば、
ワンアンドオンリーの鞍上は空くことになる。
もし
ルメール騎手ではなく、他のジョッキーに乗り替わるのであれば、
ワンアンドオンリーの
スイッチがどこにあるのか、伝えておいてほしいものだ。
皐月賞、そして
ダービーで、矢のような伸び脚を期待したい。