異質の重賞勝ち馬が誕生、まずはひとつ目のG1タイトル獲得から
文/浅田知広、写真/森鷹史
戦後初の
三冠馬・
シンザンの名を冠する
シンザン記念。しかし、そんな名前とは裏腹に、長きにわたって
「どうせクラシックには繋がらないし……」という程度の位置づけに甘んじていたレースだった。
時期的なものもあってか、いわゆる「西高東低」が顕著になってからもそんな傾向はしばらく続いていたが、ついに02年の勝ち馬
タニノギムレットが日本ダービー馬に。そして近年になって、11年②着の
オルフェーヴルが
牡馬クラシック三冠、12年には勝ち馬の
ジェンティルドンナが
牝馬三冠馬に輝くなど、ようやく名前負けしないレースになってきた。
そんな
シンザン記念の、今年の出走馬は13頭。1番人気に推された
ミッキーアイルはディープインパクト産駒で、2番人気の
ウインフルブルームはスペシャルウィーク産駒。そして3番人気の
モーリスもスクリーンヒーロー産駒と、いずれも
ジャパンC優勝馬の産駒が上位人気に推されていた。
果たして
シンザンの時代に
ジャパンCがあったら……などと考えて結果がわかるものではないが、以前あった
「シンザンを超えろ!」というキャッチフレーズを、一面では実現した馬の産駒による戦いだった。
中でも、時計面から特に注目を集めたのは1番人気の
ミッキーアイルだった。前々走の
未勝利戦は内回りとはいえ、この京都芝1600mを
2歳レコード・
1分32秒3で快勝。そして
朝日杯FSを
除外になって出走した前走・
ひいらぎ賞は、翌日の
朝日杯FSの勝ちタイムを0秒5も上回る
1分34秒2で2連勝を飾ったのだ。
しかし、時計だけで結果がわかるほど競馬は簡単なものではない。
ミッキーアイルは3走前、
新馬戦で
アトムの②着に敗れていたが、その
アトムは
朝日杯FSで⑤着に敗退している。そして、この
シンザン記念には、
朝日杯FSで
アトムに先着(③着)した
ウインフルブルームが出走してきた(2番人気)。
ミッキーアイルは
アトムに負けた。
アトムは
ウインフルブルームに負けた。ゆえに
ミッキーアイルは
ウインフルブルームより弱い……、という
三段論法も簡単には成り立たないのが競馬ではあるものの、果たして
時計が勝つのか、
三段論法が勝つのか。直線は、そんな2頭による一騎打ちが演じられることになるのだった。
まずスタートは、8枠12番の
ミッキーアイルが
好ダッシュを決めて2~3馬身のリード。一方の
ウインフルブルームは
出遅れ気味だったが、二の脚速く2番手まで進出した。そのままの態勢で迎えた4コーナー、2番手の外には
モーリスが併せてきたものの、前2頭との手応えの差は明らか。
残り300mを切ってからは、逃げ込みをはかる
ミッキーアイルと、これを追う
ウインフルブルームが後続を大きく離していった。そしてゴール前、渋太く伸びる
ウインフルブルームを、
ミッキーアイルが半馬身差で抑えて①着。マイル戦3連勝での重賞初制覇となった。
先にも触れたように
ミッキーアイルはディープインパクト産駒だが、果たして重賞を逃げ切ったディープインパクト産駒なんて過去にいたのか、と調べてみれば、なんのことはないつい先日、
阪神Cを
リアルインパクトが逃げ切ったのを忘れていた。
とはいえ、産駒の
全JRA重賞48勝のうち、この
ミッキーアイルの
シンザン記念は逃げ切りの2勝目である。
リアルインパクトも「逃げ」という括りの馬ではないだけに、
異質の重賞勝ち馬が誕生したと言ってもいいだろう。
もっとも、この馬の走りを見るとディープインパクト産駒というよりは、マイル路線で大活躍した母の父
ロックオブジブラルタル(欧州でG1・7連勝の新記録を達成)っぽい印象もある。いずれにしても、規格外の名馬2頭の血を引いているのが、この
ミッキーアイルである。
しかしまだまだ
「ディープインパクトを超えろ!」とか
「ロックオブジブラルタルを超えろ!」と言うには先が長い。まずは
朝日杯FS除外で獲り逃した(?)、
ひとつ目のG1タイトル獲得から。
次走は
NHKマイルCトライアルの
ニュージーランドTを予定しているとのこと。ここで再びその快速ぶりを発揮するのか、それとも先々を考え控える競馬を試みるのか。そのレースぶりに注目だ。