携わったすべての人の連係プレーの勝利だろう
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
最内枠に
強力な逃げ馬が入り、2週前の
阪急杯同様、「やることはただひとつ」かと思われた今回の
フィリーズレビュー。ただ、
阪急杯では
コパノリチャードが注文通りに最内枠から逃げ切ったものの、
フィリーズレビューは
逃げて押し切ることが困難なレースで、
ベルカントの出方に注目が集まった。
ゲートが開くと、これも逃げて開眼した
ニホンピロアンバーがハナを奪い、
フクノドリームは
藤田騎手が押して行こうとしたものの2番手。この2頭とは対照的に
ベルカントの
武豊騎手はまったく急ぐ素振りがなく、好位のインで脚を溜める格好となった。
レース後、
武豊騎手は
「厩舎スタッフの努力が大きいですね」と話していたが、
ベルカントはこれまでとは落ち着きが違ったようだ。ゲートで突っかかりそうになりながら道中は馬の後ろに控えても落ち着いて走り、直線で最内から伸びて差し切った。ひとつ年齢を重ねて、
大人なレースぶりだった。
ベルカントは前走の
朝日杯FSの後、大山ヒルズに移り、レースの40日ほど前に栗東トレセンに帰厩した。そこから調整を施され、この3ヵ月の間、常に今回のような
落ち着いたレースをすることに主眼を置かれていたのだろう。それに応えた馬も素晴らしいし、携わったすべての人の連係プレーの勝利でもあると思う。
ベルカントはデビュー戦から
武豊騎手が手綱を取っていて、
『武豊TV!』でもレースぶりがよく解説される馬だ。その話を聞いていると、いかに成長してきたかが分かる。
2戦目の
小倉2歳S(②着)では、コントロールを利かせづらいと言われていたが、初の芝1400m戦だった
ファンタジーS(①着)では逃げる形ながら
折り合いに進境を見せ、今回は逃げ一辺倒のレースぶりに終止符を打った。走る度に成長が見られる。厩舎スタッフの功績もさることながら、
学習能力が高い馬なのだろう。
今回の快勝劇を受け、「
桜花賞に向かわない理由はない」とのことで、次走は
桜花賞となりそうだ。これまでで唯一連対を外したのがマイル戦(
朝日杯FS)で、距離克服が課題となってくるのだろうが、
桜花賞での
サクラバクシンオー産駒と言えば
シーイズトウショウ(03年②着)が思い出される。
シーイズトウショウは
ベルカントと同じく夏の
小倉芝1200mで初勝利を挙げた馬で、その後はOPクラスで善戦するものの勝ち鞍はなく、
桜花賞出走時は13番人気という低評価だった。
ところがレースでは外枠(7枠13番)ながら好スタートを決めた後に好位のインに潜り込み、直線で前が詰まりながらも最内を突いて
②着まで上がった。そのレースぶりは今回の
ベルカントとよく似ている。
03年当時は阪神競馬場に
外回りコースがなく、
桜花賞も阪神芝の
内回りコースで施行された。現在の
桜花賞は外回りコースなので、先行脚質の馬にとっては走りづらい面もあるだろう。ただ、今回のように落ち着いて脚を溜められれば、他馬を脅かすレースも可能なのではないか。
なにより、
ベルカント自身が一戦ごとに
成長力を見せている馬なので、これまでの姿だけで評価を下すべきではないとも思う。
桜花賞は、各馬の能力比較によるレースの予想に加えて、
ベルカントの成長力に関する
予見も必要になってくるだろう。
一方、
ベルカントと並んで注目を集めた
ホウライアキコは、⑤着に敗れてしまった。
阪神JFではイレ込みが見られ、今回は休み明け(3ヶ月ぶり)でもあったため、ソフト仕上げであったのかもしれない。勝負所では早くから鞍上の
和田騎手の手が動く形になってしまった。
デビューから3連勝を決めた後に
連敗を喫し、評価は下がってきてしまいそうだ。ただ、何度も今回のレースを見直したが、
見限るのは早計な気がしてならない。
前述したように今回の
ホウライアキコは道中での手応えが良く見えなかったが、それでも最後まで伸びていて、着差は
0秒2。包まれる形で直線入口でも挟まれる格好だったので、決してスムーズとは言えなかったから、
負けて強しという評価をしてもいいのではないか。
ホウライアキコ自身、過去3勝を平坦の
小倉&京都で挙げていて、坂のある阪神で⑦⑤着と敗れているので、
桜花賞では
坂の克服が課題となってくるのだろう。加えて、落ち着いて臨めるかどうかもポイントになるのだろうが、それらがクリアになれば、近2走の
0秒2~0秒4の差を縮めることも可能だろう。こちらは、
ヨハネスブルグ産駒の成長力がどれほどあるかがカギとなりそうだ。
今年の
桜花賞は、いまのところ
ハープスターが人気を集めそうだが、2歳女王の
レッドリヴェールは直行で挑んでくるし、
阪神JFで③着だった
フォーエバーモアも
クイーンCを快勝し、本番に向かってくる。
阪神JFから3ヵ月が経ち、各々の
成長曲線は異なる弧を描いていることだろう。本番まで残り1ヶ月。最後に
どれだけ変われるかによって、勝敗に差が生まれてくるのだろう。