「新勢力」コパノリチャードがもっともロスの少ない競馬で圧勝
文/浅田知広、写真/稲葉訓也
春のスプリント王決定戦・
高松宮記念。頭に
「春の」とつく以上はほかにも同様のレースがあるわけで、
秋には
みなさんご存じ、
スプリンターズSが行われている。もっとも
「夏の」や
「冬の」は存在せず、また2、3歳限定G1もないため、ダートの
JBCスプリントを別にすれば、この距離のG1は年2レースということになる。
ただ、そんな中でも11年以降の優勝馬は
キンシャサノキセキ、
カレンチャン、そして
ロードカナロアと、いずれもすでにこの距離でG1を制していた馬。また、08~10年も
ファイングレイン、
ローレルゲレイロ、
キンシャサノキセキ(1回目)と、いずれもG1連対実績を持つ馬だった。
数少ないスプリントG1できっちり結果を出しているか、スプリント、マイル双方のG1で好走できるくらいの馬が
栄冠を勝ち取っているのだ。
さて、今年。絶対的な王者・
ロードカナロアが引退し、さて、次世代の王者はどの馬になるのか。1番人気に推されたのは、ここ1年で6勝を挙げた
ストレイトガール。そして
阪急杯を圧勝してきた4歳馬・
コパノリチャードが3番人気、同じく4歳でデビュー2戦目以降は連対を外していない
レディオブオペラが4番人気。
データ上は「①着候補」としては苦しい
新勢力だが、王者が抜けたあととなると、こういったタイプにどうしても注目したくなる。また、そんな人気にふさわしいだけの
勢いを感じさせる面々だ。
一方、
実績馬の筆頭格は、昨秋の
スプリンターズSで
ロードカナロアに続いた
ハクサンムーンで、これが2番人気。ほかに
安田記念馬・
リアルインパクトや、このレース②着2回のベテラン・
サンカルロなど、G1連対馬は6頭。さらに
スプリンターズS③着の
マヤノリュウジンなど、
実績馬が揃っていた。
そんな
新勢力と
実績馬の力比較がどう出るか。それだけでも少々難しい今年のメンバーだったが、さらにこれを難解なものにしたのが前日夜からの雨である。朝の段階から
不良馬場で、9レースの1000万・芝1200mは
1分12秒6。こうなってくると
シルクフォーチュンや
スノードラゴンなど、ダートでの実績を持つ馬も侮れなくなってくる。
ただ、あれこれ難しい中でも、まず間違いないだろうと思われたのが、
ハクサンムーンの「逃げ」だった。しかし、もともとゲートが開いた瞬間にかぎれば、さほど速くはなかった馬。それが今回は遅い部類に入ってしまい、1馬身ほど出遅れるというスタートからの
大波乱である。
こうなると、俄然チャンスが大きくなるのが他の先行勢。じんわり先頭に立った
レディオブオペラの
藤田騎手は、隣の隣で
ハクサンムーンが出遅れたのは見えていただろうか。
さらに外から来た
エーシントップの
武幸騎手は、内を見やって同厩の
ハクサンムーンがいないことを確認すると、では自分がハナを切りましょうとばかりに、
レディオブオペラを交わしていった。
そんな動きを内で見ていたのが
コパノリチャード・
M.デムーロ騎手だった。各馬が内ラチ沿いを避けて外へ出すような馬場状態。さらに、もともと中京芝1200mは外枠優勢の傾向もあり、決して好枠とは言えない5番枠だったが、馬場差よりも距離損を抑える方を取って内々の追走だ。
そして、みんなが外へ外へと行った分、かぶされることもなく、なんともあっさり「直線だけ外」。内の馬場状態が悪いときの短距離戦で、
もっともロスの少ない競馬を難なくやってのけたのだ。
前走・
阪急杯は良馬場でラスト1ハロンで
12秒8を要しながらの逃げ切りだったが、それでいて②着との差は
4馬身。渋太さやパワーが要求される競馬でより強さを発揮するタイプなのか、不良馬場の今回はラスト1ハロン
13秒2で、
3馬身差の圧勝となった。
こうして、終わってみれば
「新勢力」コパノリチャードが優勝した今年の
高松宮記念。ただ、このレース前はさておき、これから
「スプリント、マイル双方のG1で好走できるくらいの馬」には違いない。
昨年の
マイルCSでは逃げ粘って④着、
NHKマイルCでは⑧着でも0秒4差。馬場が違えば、あるいはさらに力をつけてくれば、いくらでも
チャンスはあるだろう。ちょうど
ドバイでの日本馬の快挙を見た直後だけに、
コパノリチャードも自分に向いた馬場を求めて海外へ、なんていう姿も見てみたい。