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未経験だっただけで1400mも悪くなかった、というワンツー決着に
文/浅田知広、写真/稲葉訓也


阪神牝馬Sが暮れから春に移動し、新設されたヴィクトリアマイルのステップレースになったのは06年から。同時に、1600mから1400mに距離を短縮されている。当時の阪神1600mは外枠不利の旧コース。ならば1400mという選択もわからなくはない。ただ、外回り1600mが完成した翌年以降も、この阪神牝馬Sはそのまま内回り1400m戦のままだ。

さて、直線の長い東京芝1600mの本番へ向け、この設定はどうなんだ、という面はあるものの。あくまで馬券を買って楽しむ側からすれば、これはこれで「あり」である。

本番を見据えたマイラー。G1設定のない1400mがベストのタイプ。そしてどう考えても本番では辛くても、内回り1400mなら対応可能なスプリンター。果たしてどのタイプがこの条件で結果を出すのか、特に今年は距離適性がカギを握る一戦だった。

1番人気に推されたスマートレイアーは2000mの秋華賞②着馬で、1400mは未経験な上に1600mすらデビュー戦の1戦1勝のみ。2番人気のトーホウアマポーラは前走こそ1400mで勝っているものの、それ以前の4勝はすべて1200mだった。

そして3番人気のウリウリは4勝中3勝が1600mで、1400mは経験なし。4番人気のウイングザムーンまできて、ようやく5勝中4勝が1400mという馬になるが、続くヴィルシーナエピセアロームも距離に不安を抱えている。

さて、このメンバーで買うべきはどの馬か。せっかくそんな組み合わせなら人気のない方を……、と思いたくなるところだ。

そしてゲートが開くと、1番人気・1400m未経験のスマートレイアーがポツンと1頭、3馬身ほどの出遅れ。秋華賞でも少々の出遅れは喫していたが、さすがにこの距離での大出遅れでは、ある程度は勝負あったという印象だった。

他の人気どころは、トーホウアマポーラが先行争いからじんわり好位まで下げたものの、掛かり加減でこちらも少々不安なレース運び。一方、ウリウリは後方のインで特に追走に苦労することもなく、上位人気3頭の中ではもっとも無難な道中に見受けられた。

迎えた直線前半もそんな印象通り。ハナを切ったクロフネサプライズローブティサージュが並びかけた直後、内から抜群の手応えのまますっと接近してきたのが、そのウリウリだった。ただ、ウリウリにとっての不運は、ここで外へ持ち出す多少のロスがあったこと。すんなり抜けられていれば、重賞連覇の可能性も十分にあっただろう。

そして、そのウリウリをハナ差で下したのは、スタートで「勝負あった」はずのスマートレイアーだった。出遅れた後も、無理には脚を使わずそのまま後方待機。直線、残り200mでもまだ最後方だったが、そこから12頭ごぼう抜きの鮮やかな差し切り勝ちだ。

展開が向いた面も少々あったが、終わってみれば、経験がなかっただけで1400mも悪くなかった、という馬のワンツー決着である。

この2頭は距離延長に不安なし。当然、本番のヴィクトリアマイルでも有力候補に数えられる。ただ、スマートレイアーは東京で500万勝ちこそあるものの、これまでの馬券圏外2回はともに左回りの新潟と中京だった。

そしてウリウリは左回り1戦1勝(中京)だが、関東遠征は中山のアネモネS④着のみで、このときは連闘でもありマイナス12キロと大幅に馬体を減らしていた。

一方、この2頭と同期の2歳女王・ローブティサージュは、その阪神JF以来となる馬券圏内の③着と復調気配を見せてきた。もともと力のある馬が、積極的なレース運びで一瞬は勝ったかという見せ場を作っており、本番でさらに上向いてくればチャンスがありそうだ。もちろん、本番でコース・距離が変わろうとも今回と同じ順番という可能性も大いにあるだろう。

そしてこのメンバーに、距離短縮がカギになるメイショウマンボデニムアンドルビー、逆にレース実績のあるホエールキャプチャが加わってくることになりそう。また、今回⑪着のヴィルシーナとて、昨年優勝のレースで復活がないとも言い切れない。

それぞれが今度は東京1600mの舞台でどんな走りを見せるのか。女王ジェンティルドンナ不在のヴィクトリアマイルになるだろうが、それでも今年は十分に楽しめる一戦になりそうだ。