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まだ隠し持っている素晴らしい面があるかも!?
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博


今年のNHKマイルCは予想しがいがあった。最大のポイントはミッキーアイルをどう判断するか」。異論のある人はいないだろう。

ミッキー肯定派「4連勝中。前走アーリントンCも楽勝。一介の逃げ馬ではない。ここも通過点」という声が代表的なところか。すべて納得できる意見だ。

一方、ミッキー否定派はこんな感じか。「東京コースは初めて。それどころか左回りも初めて。抜け出してフラフラする馬じゃないか。それが初の左回りで大丈夫なのか。18頭立ても初めて。しかも明らかに目標にされる。直線で早々とつかまるんじゃないか」。これらも分かる。この意見を明確に否定できる材料はない。

しかし、ミッキーアイルひと味違う答えを出して戴冠した。「直線を向き、ライバルが迫ったところで懸命に踏ん張ってクビ差押し切る」。この馬にこんな二枚腰があるとは想像がつかなかった。

ゴール前で迫られることが少なかったので、いままで明らかになってこなかったが、他馬に迫られて歯を食いしばる勝負根性が実はあったのだ。肯定派も驚いただろうし、否定派も脱帽せざるを得ない。ミッキーアイルについて考えをめぐらせたすべての人の心に刺さる、いい勝ち方だったと思う。

ダンツキャンサーが行くという見方もあったが、ミッキーの方が速かった。ダンツは無理せず3番手。結果として18番人気ながら⑦着を拾ってきたのだから藤田騎手の判断、なかなかだったと思う。

ミッキーがマイペースを打ち、ダンツが後続にふたをして流れはゆったり。1000m通過58秒4は、この馬場を考えれば平均からやや遅めの流れだろう。サトノルパンは引っかかり、向正面で首を上げた。

直線を向いて、オッと思わせたのがホウライアキコ。懸命にミッキーアイルをつかまえにいった。ラスト2Fが12秒8-12秒1と、ゴールに向けてラップが猛然と加速した桜花賞において、しっかり伸び切って④着に入った実力はダテではなかった。

結果は⑤着だったが十分に胸を張れるもの。パドックでも我慢できていたし、精神的成長を感じ取ることができた。夏の短距離戦線では主役級の器だろう。

ホウライアキコの追い上げを退けたミッキーアイルに、第2、第3の矢が襲いかかる。タガノブルグ(②着)、キングズオブザサン(③着)の1枠2頭だ。

馬場のいい時は内枠を狙うのが馬券の鉄則だが、2頭ともに枠の利を存分に活かし切った。道中は中団やや後方のインで我慢。直線を向いてからジワジワと外に出し、坂を上がり切ってから力強く脚を伸ばした。

特にキングズオブザサンはスイッチが入った瞬間、しびれるような伸びを見せた。中山の葉牡丹賞を好時計勝ちしていることから、勝手に中山向きのレッテルを張っていたが、実は東京でもジワッと脚をためることができればしっかり走れたのだ。このあたりは絶好調・蛯名騎手の好判断だろう。

それらをタイム差なしで抑え切ったミッキーアイル。この馬にここまでの勝負根性があるとは、失礼ながら想像していなかった。このあたり、G1・7連勝を果たした母の父ロックオブジブラルタルから「負けない遺伝子」を受け継いでいるようだ。

重ねて言うが、この大一番で新たな一面を見せて勝ち切ったことは大きい。「まだ隠し持っている素晴らしい面があるかもしれない」という期待感を次走以降に予感させてくれた。

聞けば、東京マイルのG1における逃げ切りVは、88年安田記念ニッポーテイオー12年NHKマイルCカレンブラックヒルに次ぐ、わずか3例目とのこと。前述のようにマイペースで逃げられたことは確かだが、歴史に残るマイルの強豪へと上り詰める可能性は広がったと言えるだろう。

そうそう、今回は上位馬の前走もアーリントンC橘S皐月賞桜花賞とバラエティに富んでいた。中山マイルで行われるニュージーランドTにトライアルの意味はあるのかという声が上がりそうだが、そこも含めて予想をして、的中につなげるのが面白いのだ。

あまりにトライアルが整備されすぎても面白くない。NHKマイルCは、ごった煮のようと言うか、異種格闘技戦的な多種多様性があるG1であり続けてほしい。その方が絶対に面白い。