打てる手は打ってきた結果が見事連覇に繋がった
文/浅田知広、写真/川井博
06年に創設され、今年で9回目を迎えた
ヴィクトリアマイル。1番人気馬の単勝オッズを見ると、06年から11年までの6回は1倍台から2倍台前半までと、結果は別にして戦前に多くの
ファンから信頼を集める中心馬が存在した。
しかし、一昨年は
アパパネ(⑤着)が4.0倍、そして昨年は
ヴィルシーナ(①着)が3.1倍と、ちょっと怪しい雰囲気もあった馬が1番人気に推されていた。それでも、
アパパネはご存じ
牝馬三冠馬。そして
ヴィルシーナも「
ジェンティルドンナがいなければ」
牝馬三冠馬である。
そして今年は、そこからさらに進めた(後退した?)ようなメンバー構成で、単勝3.5倍の1番人気はG1未勝利(
秋華賞②着)の
スマートレイアー。東京での500万勝ちこそあるものの、これまで連対を外した2戦は左回りの新潟と中京で、
右回りほどの安定感はない馬だ。
一方、2番人気はこのレース①②着の実績馬・
ホエールキャプチャだったが、なにせ勝ったり負けたりの繰り返し。いくら東京が良いとはいえ、
古馬になって2戦連続の好走がない馬である。
そしてG1・3勝と実績ではいちばんの
メイショウマンボ(3番人気)は、1400mの
フィリーズレビュー勝ちこそあれ、マイルG1は
阪神JFも
桜花賞も
⑩着である。
さらに、4番人気の
ジャパンC②着馬・
デニムアンドルビーはドバイ帰りで、1600mは
新馬戦②着以来。こういった
不安も抱えるG1馬や牡馬相手のG1連対馬の上に、3歳牝馬限定のG1・②着馬、
スマートレイアーが乗っかるという人気が形成された。
そんなメンバー構成に加え、このレースの傾向も当日の脚質傾向も、逃げ残りもあれば差しが決まることもありと、展開の読みも難しい一戦になっていた。ただ、ハナを切るのは
クロフネサプライズと予想する向きが多かったのは確かである。
ところが、ちょっとしたサプライズの逃げを打ったのは
ヴィルシーナだった。先行した
東京新聞杯で⑪着に敗れた後の
内田博幸騎手のコメントは、もう一度差す競馬を勉強させた方が良いとかなんとか。実際、
阪神牝馬S(⑪着)では中団から進めていたが、そんな競馬はあっさりと一戦で捨て、ゲートが開いた瞬間から押っつけて逃げる気満々のスタートである。
なにせ昨年の優勝馬だけに、この時点で
「おっ?」と思った方もいるだろう。ただ、これまたなにせ過去1年すべて⑦着以下の馬でもある。上位人気に推された他の実績馬からは取り残されたような11番人気。先行したところで結果が出ていなかったのだから、ここで逃げたからといって……と考えた(あるいは考え直した)方も、また多かったに違いない。
しかし、直線に入ると
クロフネサプライズをまず突き放し、いったんは迫ってきた
ケイアイエレガントも振り切って坂上まで先頭。ここまでは人気薄の立場同士だったが、ここからさらに、内、外から迫る
メイショウマンボに
ホエールキャプチャ、そして間を割って伸びてきた
ストレイトガールといった上位人気勢の追撃も抑え込み、鮮やかな逃げ切りで
史上初のヴィクトリアマイル連覇を達成したのだ。
このレースから10分ほど前、京都メインの
栗東Sでは、
キョウワダッフィーに騎乗した
竹之下智昭騎手が1年半ぶりの勝利を挙げたが、実は今回、1年ぶりに
ヴィルシーナの最終追い切りに騎乗したのがその
竹之下騎手。
これで実質東西メインレース2連勝、というのは言い過ぎだろうが、ともあれ
ディフェンディングチャンピオンとして、
打てる手は打ってきた結果が、見事連覇に繋がったとは言っていいだろう。
②着の
メイショウマンボも、敗れたとはいえ実力馬らしい走りは見せていた。そして③着の
ストレイトガールは、直線で前が詰まり通しの非常に惜しい競馬。両馬とも、マイル戦にメドを立てたという点でも、大いに収穫のあるレースだった。
さて、ここから
安田記念に何頭が進むのか。前週・
日本ダービーに挑戦する
レッドリヴェールの結果いかんでは
「今週も牝馬だ!」という雰囲気で
安田記念を迎える……には
ジャスタウェイの存在が大きすぎるが、それでも相手は遠征帰り。直近のマイル戦・昨夏の
関屋記念では
レッドスパーダの②着に敗れているだけに、付け入る余地もあるだろう。
今度は勝つ番かもしれない
ホエールキャプチャ(④着)あたりも含め、ここに出走した牝馬勢が
「世界王者」相手にどんな走りを見せるかにも注目したい。