巻き返しが多いとはいえ、まさかまさかの大逆転ワンツー
文/浅田知広、写真/稲葉訓也
従来の
東海Sと時期を入れ替える形で、昨年から5月に移動してきた
平安S。
東海Sも10~12年は中京ではなく京都ダート1900mで行われており、レース名が変わり、グレードがG2からG3になっただけ、と言ってもいいだろう。
その
G2・東海Sは
「帝王賞へ向けた中央のステップレース」といった位置づけだったが、なかなかその役割は果たせず、
帝王賞優勝馬は05年の
タイムパラドックス(
東海Sは③着)が最後。昨年こそ
ニホンピロアワーズ(
平安S①着→次走の
帝王賞②着)の出走があったものの、G1級の多くは大型連休中の
G1・かしわ記念に出走する例が多く、G3になってしまったのも仕方ない、と思える。
そんな流れで迎えた
「5月の平安S」としては2回目の今年。1番人気に推されたのは、前走・
アンタレスSで重賞初制覇を果たした
ナムラビクターだった。
昨年前半は棒に振ったが、3歳時の
レパードSで
ホッコータルマエとクビ差②着の実績があり、ここから再びG1へ……とも思えたのだが、レース前には
帝王賞へは向かわない、との報道もあり。やっぱり
帝王賞のステップレースとは違うのかな、という印象だ。
ともあれ、
ナムラビクターにとって前半戦最後となれば、重賞連覇で秋に繋がる締めくくりが期待されるところ。
東海S・
平安Sがこの時期に京都ダート1900mで行われた過去4回、
前走・アンタレスS組が
[3.3.0.15]と連対馬8頭中6頭を占めており、その最先着馬、しかも①着となれば単勝2.2倍の断然人気も当然だろう。
ただ、ここで気になったのは、この4回のうち、
アンタレスS最先着馬は
[1.0.0.3]、そして③着以内馬も
[2.0.0.5]というデータである。この組の
連対馬6頭中4頭は、④着以下からの巻き返しだったのだ。
そんな少しばかり
不穏な空気を感じつつレースを見れば、3コーナー手前で後方から2番人気の
ジェベルムーサが徐々に進出。少し前に位置した
ナムラビクターもこの動きに合わせて動きはじめ、3~4コーナー中間では2頭がまくり切ろうかという勢い。さらに3番人気の
トウショウフリークも好位のインをいい感じに追走しており、この段階ではある程度人気通りの決着になるかと思われた。
ところが4コーナーにかかると、真っ先に手が動き始めた
ジェベルムーサに触発でもされたかのように、
ナムラビクター、そして
トウショウフリークも手応えが怪しくなり、ほんの100mやそこらの間に一気に
不穏な空気が密度を増して戻ってきたのだ。
そして直線。上位人気の中では唯一、楽な手応えで4コーナーを通過した
ワイルドフラッパー(4番人気)をすっと突き放したのは、なんと12番人気の
クリノスターオーだった。さらに、ジリジリとしか伸びない
ナムラビクター、
ジェベルムーサの外から鋭い末脚を繰り出したのは、7番人気の
ソロルである。
クリノスターオーは、前走の
アンタレスSでしんがりの⑯着。そして
ソロルは、前々走・
マーチSの重賞制覇から一転、⑫着に敗れていた馬である。確かに
アンタレスSの着順がアテにならない傾向があったとはいえ、まさかまさか、
ふた桁着順馬2頭による大逆転のワンツー決着となったのだった。
もっとも、勝った
クリノスターオーはオープン入り後も先行して⑤⑤着とまずまず好走しており、
アンタレスSは明らかに控えたことが大敗の要因だった。
「だからといって勝つまでは」とも言える成績だが、なにせ
伸び盛りの4歳馬である。今のところは
「大凡走後でも一変がある要注意馬」だが、これから気性面も成長してくれば強敵相手になっても楽しみだ。
また、②着の
ソロルは
ゴールドアリュールの甥にあたる馬。同じく
4歳でまだまだ伸びしろもありそうだ。一方、④着の
ジェベルムーサ、⑤着の
ナムラビクターは、終わってみればペースが上がったところで脚を使ってしまった形。この敗戦で壁ということもないだろう。
これら上位馬はまだまだ
「勝ったり負けたり」がありそうで、12月の
チャンピオンズC(旧JCダート)へ向け、どの馬が有力候補として名乗りをあげてくるだろうか。
そして、そんな牡馬勢に混ざって③着と健闘したのが5歳牝馬・
ワイルドフラッパー。女王・
メーデイアの引退後は、牝馬同士なら無敵とも言える走りを見せており、順調なら、今年から牝馬限定になった
ブリーダーズGCや、秋の
JBCレディスクラシックでも強い競馬を見せてくれそうだ。