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正攻法の競馬で“いつもの彼女”ではなかったハープスターを撃破
文/石田敏徳、写真/川井博


オークスデーの東京で川田将雅騎手が騎乗したのは2鞍。6レースの3歳500万下(芝1600m)オークスだったわけだが、このうち、単勝2.0倍という断然の人気を集めていたパドルウィールに騎乗した6レースでは中団の内々を進み、十分な手応えで直線に向いたものの、前がドン詰まりになって⑨着に沈んだ。

完全に脚を余した格好で敗れたその6レースが終わった後、競馬友達のTさんとこんな話をした。

「こりゃもう、(オークスは)大外に行くね」

「だね」

Bコースに変わった先週は前残りと内伸びの傾向が目立っていた東京の芝コース。“それでもハープスターは大外に行くのか?”という話を、Tさんとは先週からしていたのだ。

そんな先週に比べると、外からの差しもポツポツ決まり始めていた今週だが、全般的な傾向としては依然、内めのほうが優勢という印象。未知の領域となる東京・2400mの舞台で、記録的な支持(最終の単勝オッズは1.3倍)を背負って「大外一気」にかける騎手の心情やいかに。

それでも6レースの結果を踏まえて考えれば、川田騎手がいつものようにハープスターを大外へ持ち出すのはもはや疑いようのないことに思えた。

そして案の定、は大外へ進路を取った。直線半ばの脚勢からは桜花賞と同様、キッチリと前を飲み込んでゴールを駆け抜けるようにも映った。ところが──。この日のハープスター“いつもの彼女”ではなかったのだ。

ゲートを飛び出した後はいつになく上々の行きっぷりで後方4、5番手を追走。2コーナーで前の馬が躓いた影響を受けて少しゴチャつく格好になったうえ、前半600m地点からは一気にペースが落ちたため、やや折り合いに苦労する場面は見られたが、それは致命的なロスといえるほどのものではなかった。

ピッタリと外に蓋をしてきたニシノアカツキを先に遣り、進路を確保した川田騎手は4コーナー、迷うことなく馬群の大外へ持ち出してアクセルを踏み込む。

これに応えて爆発的な末脚を発揮──したように見えたハープスターだが、川田騎手によると実は「少し内にササリ気味」だったそう。自身の上がりタイム(33秒6)が示す通り、普通の水準では十分に非凡といえる末脚を繰り出してはいるのだが、フルパワーでまっしぐらに前へ伸びていたわけではないというのがの実感だった。

「まあ、自分の競馬をして負けたんだから仕方ないやろ」といつものようにさばさばとレースを振り返った松田博資調教師は、「距離の壁ですかね?」という質問に対しては、「いや、距離じゃない」とキッパリ否定。傍目に見ても確かに、距離の壁に跳ね返されたという感じの負け方ではなかった。

パドックでのテンションがいつもよりちょっぴり高いように映ったこと、2コーナーでややリズムを乱したこと、3コーナーにかけて外に蓋をされる形になったことなど、粗探しのような理由はいくつか指摘できるけれど、いずれにしてもこの日のハープスターは少しご機嫌斜めで、まっしぐらに走る気分ではなかったということだろう。

一方、「強い精神力と強靭な体力」(斎藤誠調教師)に裏打ちされた正攻法のレースにより、ハープスターへの雪辱を果たしたのがヌーヴォレコルトだった。

こちらも2コーナーで前がゴチャつき、少し力む場面があったものの、そこをクリアしてからはスムーズな折り合いで馬群の中団を追走。馬場の真ん中に進路を取った直線では、マーブルカテドラルの背後でしばらく追い出しを待たされたが、前が開くや否や、実に鋭い反応で先頭に抜け出し、しっかりとしたフィニッシュを決めてハープスターの強襲を凌ぎきった。

「(追い込み一手のハープスターに対し)こちらは注文がつかないタイプだし、これで負けたら仕方がないというレースができた」岩田康誠騎手が振り返れば、「長距離の輸送をしても、強い調教をしても動じない非常に精神力の強い馬なんです」斎藤調教師

初対決のチューリップ賞では0秒4差だったタイム差を桜花賞では0秒1差に詰め、オークスでは三度目の正直を実らせてついに逆転──。ハーツクライ産駒らしい成長力とともに、それぞれの父から受け継いだ“因縁”も感じさせたオークスだった。