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「貫禄、精神力、能力」という総合力で掴み取ったハナ差の勝利
文/石田敏徳、写真/森鷹史


ダービー馬ワンアンドオンリーの取材で、鳥取県の大山ヒルズに行って来た金曜日(6月6日)。「悪天候のため、羽田空港の滑走路が半分閉鎖されている」とかの影響で帰りの飛行機が大幅に遅れ、電車とタクシー(=大行列)を乗り継ぎ、午前2時近くになってようやく船橋の自宅に帰り着くという散々な目にあった。

文字通り、“肌で体感する”羽目になった金曜日の悪天候に加え、土曜日の府中もかなりの雨。その土曜日のレースでは逃げ馬が内を空けてコーナーを回るシーンが目についたし、日曜日もこれまた終日、空模様は芳しくないという予報が出ている。

世界ランキングトップのジャスタウェイを筆頭にG1ウイナーが9頭。残りのG1未勝利馬のうち、重賞未勝利馬は1頭(フィエロ)だけで、ダービー皐月賞の1番人気馬(ワールドエースグランデッツァ)の顔も見えるという超豪華なメンバーが一堂に会した今年の安田記念は、こうして悪天候に水を差され、ドロドロの不良馬場を舞台に争われることになった。

ここまで馬場が悪くなると、道悪の巧拙とかはあまり関係なくなる──というのがの持論だ。管理と整備が行き届いた日本の馬場では年に数回しかお目にかかれない「ドロドロ馬場のG1」では、精神力も含めた馬の総合力が問われるもの。

オルフェーヴルダービーしかり、もっと古い話をすれば、タイキシャトルが勝った安田記念しかり。だから距離適性や急遽の乗り替わりなど、もろもろの不安材料には目をつぶり、当初はジャスタウェイを①着に固定した馬券を買うつもりでいた。なんといっても世界ランキング第1位だし。

しかし当日のレースを見ていたら、馬場は土曜日よりも少し回復している印象を受けた。受けてしまったのだ。直線では真ん中あたりに持ち出した馬の好走が目に付き、内めを突いた馬、先行した馬は意外に頑張る反面、大外一気は全然決まらない。

んで、そういえばロサギガンティアに騎乗したNHKマイルC柴田善臣騎手は大外をぶん回してたよなあとか余計なことを思い出してしまって急遽、グランデッツァエキストラエンドからの流し馬券に変更してしまった次第。くそー、グランプリボスはちゃんと相手に拾っていたんだけどなあ。

それはさておき、ともかくジャスタウェイは強かった。レース後の共同会見で須貝尚介調教師「世界一(=ランキング・トップの馬としての)の貫禄、精神力、能力を感じさせてくれたレースだったと思う」と話していたけれど、トレーナーの勝利の弁はレースの“すべて”を表現しつくしていたように思う。

先導役を務めたのは、例によって抜群の二の脚で飛び出したミッキーアイル。前半1000mの通過が59秒1というペースは今日の馬場では明らかに飛ばしすぎで、中団馬群の後方というジャスタウェイの位置取りは、展開的にもベストのポジションといえただろう。

しかし問題はすぐ外を、抜群の手応えのグランプリボスに蓋をされる格好になったことで、このため、直線では「やむなく、馬場が悪い内へ」(柴田善臣騎手)進路を取る形に。追い出しにかかってからの反応と加速が鈍いように見えたのは、「馬場に脚をとられて何度もノメっていた」からだという。

一方、これを尻目に馬場の外めへ持ち出したグランプリボスは、綺麗に進路が開いた幸運にも恵まれて一気に先頭へ躍り出る。しかし抜け出したところで馬が遊んでしまい(パトロールビデオを見ると、外へ逃げるような格好をしているのがよく分かる)、結果的には仕掛けもワンテンポ早かったのか、ゴール前では急激に失速、そこへ「何度も馬場に脚をとられ、普通の馬なら諦めてしまってもおかしくなかったのに、最後まで前の馬を追いかけようとしていた」というジャスタウェイが襲い掛かる。

グランプリボスも懸命の抵抗を続けたものの、これを内からキッチリととらえたところがゴール。ラスト1ハロンの13秒8というラップ(G1では滅多にお目にかかれない数字である)にも示されていたハードな戦いをハナ差で勝ち切ったのは、まさに先のトレーナーの言葉通り、「貫禄、精神力、そして能力」という総合力の表れだっただろう。

真の最強馬はどんな条件でもキッチリと勝ち切る。月並みにはなるが、そんな感想を改めて抱いた今回の安田記念。ちなみに世界ナンバーワンホースの今後の進路については、「レース後の息の入りがいつになく悪かったので、宝塚記念への出否については馬の様子を見てから慎重に判断したい。秋は凱旋門賞へという考えもありますが、もし宝塚記念をスキップする場合は、ぶっつけで(凱旋門賞に)挑むことになると思います」(須貝調教師)とのことである。