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この勝利は偶然の産物なんかではない
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也


メイショウナルトが単騎で逃げている姿を見て、「ずいぶん楽に逃げさせてるなあ~」と思った人がいれば、実はそうでもなかったので、まずはそのことをお知らせしておきたい。

内からハナを奪ったメイショウナルトは序盤からペースを落としておらず、前半1000mの通過タイムは58秒9。昨年(58秒6)とほとんど同じだが、昨年の逃げ馬ラッキーバニラは3~4コーナーでは失速していて、結局、大きく離された最下位に敗れている。

メイショウナルトは淀みないペースを作って地力勝負に持ち込み、昨年のマイネルラクリマの勝ち時計(1分58秒9)を上回るタイム(1分58秒7)で押し切ったのだから立派だ。決して恵まれた逃げ切り勝ちではなかったので、その点は評価すべきだ。

メイショウナルトは夏が得意な馬で、昨夏の小倉記念をレコード(1分57秒1)で制していたのだから、この舞台で快勝しても何ら不思議ではないと思っていた。ただ、逃げの手に出るとは、正直なところ思っておらず、道中は少々の驚きをもって眺めていた。

レース後、勝利騎手インタビューで田辺騎手は、逃げることも頭に入れて臨んでいたことを明かした。田辺騎手はテン乗りだったが、のびのび走らせた方が良さそうなことを事前に感じ取っていて、この戦法を採ったとのことだった。

さすが一流ジョッキーは違うなあ、と感心したが、そのインタビューの前にもうひとつ感心させられることがあった。テレビの解説席に座っていた元ジョッキーの岡部幸雄氏は、田辺騎手のインタビューが行われる前にレースVTRを見ながら「(田辺騎手は)迷いなく行っている」と話していた。話を聞かなくても鞍上の考えを察知していて、こちらにも「さすがや~」と感心させられた。

メイショウナルトのようなタイプは気分を損ねずに走らせることが大切で、そのひとつの手段が「逃げ」だったのだろう。それは田辺騎手も、岡部元騎手も、頭の中にあったこと。ただ、それだけではないのではないかとも思う。ハナを切れれば、鞍上が誰であっても結果が同じだったかと言えば、必ずしもそうとも言えないと思うからだ。

サラブレ本誌田辺騎手の連載(「田辺裕信の一鞍専心」)があるが、その中で、ジョッキーはそれぞれで折り合いの付け方を持っていて、それはレース中だけでなく、返し馬などでも方法が異なる場合があると記されていた。今回の逃げ切り勝ちは、田辺騎手だったからこそ可能だった面もあるのではないか。何か特別なことをしたのかどうか? 可能であれば、次号のサラブレ本誌(9月号)で解説していただきましょう。

いずれにしても、田辺騎手折り合い上手な印象があって、それを見越してメイショウナルトの陣営も白羽の矢を立てたのだと思う。この勝利は、決して偶然の産物ではない

折り合いということでは、②着に食い込んだニューダイナスティ(吉田豊騎手)にも驚かされた。ニューダイナスティは差しての好走もある馬だが、基本的には逃げ&先行型で、揉まれない形がベストとの印象があった。

しかし、今回は内枠で行き脚が付かない感じでも、内のポケットに入ってリズム良く走り、内を捌いて②着まで差し込んだ。こちらも吉田豊騎手がテン乗りだったが、力を出し切らせる好騎乗だった。

③&④着には上位人気に推された2頭(マイネルラクリマダコール)が入ったが、斤量差や道中の位置取りの差もあったのだろう。結果的に、1~4枠の馬で掲示板は占められたので、8枠でハンデ(57kg)も背負っていたラブリーデイには厳しいレースとなってしまった。

今回優勝したメイショウナルトは1枠2番という内枠で、5番人気だった。昨年の小倉記念を制した時は3枠4番で、3番人気。重賞で1番人気に推された時はともに⑭着(AR共和国杯金鯱賞)に敗れているので、内枠で気楽な立場で走れる時が良いのだろう。

今年は七夕賞を制したことで、サマー2000シリーズがひとつの目標になるのだと思うが、上位人気に推されても、また、内枠ではなくても、気分を損ねずに走ることができるかどうか。今後はその点が重要になってきそうだ。