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好相性の地で待望の重賞タイトル獲得
文/浅田知広、写真/川井博


函館記念のひとつ前に行われた第10レースは「エリモハリアーC」。さほど古い話ではないのでご存じの方も多かろうが、エリモハリアーは05~07年、5~7歳時に函館記念3連覇を飾った馬だ。

そんなエリモハリアー「さすがにもう厳しいだろう」と7番人気だった7歳時の07年やら、8歳キングトップガン→10歳マヤノライジンで決着した11年やらで、ベテランホースの活躍、好走が多い印象もある函館記念。過去10年の傾向を調べると、[4.3.1.40](複勝率16.7%)で、最多の7連対を記録するのが「7歳以上」の馬たちである。

一方、好走確率が高いのは、充実期を迎えた4歳馬の[3.3.2.11](複勝率42.1%)。馬券を買うなら、好走確率の高い4歳馬を軸に、高齢馬でも軽視せず手広く流す、などという作戦が頭に浮かぶ。

ところが、今年は肝心の4歳馬が不在のメンバー構成。そもそもハンデ戦で行われることに加え、馬場適性も結果を大きく左右する函館コースと、難しい要素の多いこのレース。1番人気の5歳馬・グランデッツァこそ単勝3.6倍で頭ひとつ抜けていたが、7倍台の2番人気以下は大混戦でレースを迎えた。

先手を奪ったのは、過去2回の函館記念挑戦が④⑤着とまずまずの実績を残す7歳馬・トウカイパラダイス(5番人気)。これを1番人気のグランデッツァと、3番人気の3歳牝馬・バウンスシャッセが追いかけ、その直後に重賞②着6回のアドマイヤタイシ(4番人気)。上位人気馬が揃って前々につけ、そのままゴールまで持ちこたえれば平穏な決着、直線大逆転なら波乱必至という展開になった。

そうなると気になるのは道中のラップタイム。1000mは59秒台半ばで通過したように見え(後の発表では59秒6)、少しばかり速いかという向正面だった。

そんな流れのためか、3コーナーにかかるとバウンスシャッセが早々に脱落。さらに、アドマイヤタイシグランデッツァの手応えも怪しく、前の人気馬で楽そうなのは逃げたトウカイパラダイス1頭だけだった。とはいえ、他の有力どころがこの有様では、決して余裕のある逃げではなかったのだろう。

それでも残り200mまでは、トウカイパラダイスグランデッツァがなんとか踏みとどまっていたものの、そこに襲いかかったのが、上位人気馬の中では唯一の後方待機・ラブイズブーシェ(2番人気)だった。

向正面では後方から5番手に位置していたが、3コーナーから大外をまくって3番手まで進出。その勢いのまま一気に前2頭を差し切り、7度目の重賞挑戦で嬉しい初のタイトル獲得を果たしたのだった。

5歳のラブイズブーシェは2~3歳時は未勝利に終わり、初勝利を挙げたのは4歳を迎えた昨年2月。このレースで好成績の4歳馬が不在のメンバーなら、他の馬より初勝利が1年遅れのこの馬を「実質4歳馬」とみなして狙うべきだった……、というのは無理があるだろうか。

ともあれ、昨春はその初勝利から3連勝を飾り、夏の函館では1000万、1600万と2連勝。続く札幌記念は特殊な馬場状態で⑩着敗退を喫したが、有馬記念では12番人気という低評価を覆しての④着、そして前走の目黒記念②着と、G1、G2でも健闘を見せて函館に戻ってきた。

父マンハッタンカフェ母の父メジロマックイーンはともに、北海道で条件戦2連勝を飾って菊花賞制覇に繋げた馬。ラブイズブーシェ自身は菊花賞とは無縁ながら、昨夏の連勝に今年の重賞制覇と、やはりこの地は好相性だ。昨年はその勢いを持続しきれなかったが、今年は秋の大レースに繋げることができるのか。今後の走りに注目したい。

そして、そのラブイズブーシェに唯一迫ったのが、トップハンデ58kgを背負ったベテラン7歳馬・ダークシャドウだった。昨秋のマイルCS⑯着、今年の中山記念⑪着と、これまでにない大崩れが続き、年齢的な衰えも心配されたが、前走のエプソムCは59kgで③着に好走。

そして、58kgを背負った今回も、向正面からムチを飛ばして追い上げ②着と、G3では重い斤量を背負っても力のあるところを見せている。一昨年②着の実績がある札幌記念あたりで上位を争えるようなら、再びG1への道が開けてきそうだ。