55kgで勝ち切ったことで、キャトルフィーユはひとつの壁を越えた
文/編集部(T)、写真/川井博
G1勝ち馬の姿こそないものの、今年の
マーメイドSを制した
ディアデラマドレ、
福島牝馬S勝ち馬
ケイアイエレガント、
阪神牝馬S勝ち馬
スマートレイアーなど、今年の古馬牝馬重賞戦線で好成績を収めてきた馬たちが揃い、牝馬限定G3としては
好メンバーが揃った一戦となった。
単勝オッズは6頭が10倍を切る混戦模様だったが、1番人気
スマートレイアー、3番人気
ディアデラマドレに挟まって、2番人気は牝馬限定G3で②着が3回あり、悲願の重賞制覇を目指す
キャトルフィーユが推される形となった。
レースのひとつのポイントとなったのは
オツウの
逃げ。これには驚いた。いや、逃げることにさほど驚きはなかったが、一番に驚いたのは
大逃げを打ったこと。
その結果、レースの
前半1000m通過が57秒8。これが
1分45秒7という、従来のタイムを0秒7も更新する
大レコードタイムを生んだ要因となったのは間違いのないところだろう。
オツウ自身にとっても、2走前の
御室特別(京都芝2000m)で逃げてはいるが、この時の前半1000m通過が61秒0。ここまで速いペースで逃げたことはなかった。
調べてみると、
札幌芝1800mで前半1000mの通過タイムが58秒を切ったのは2回目。今回の
クイーンS以外では、94年
HTB賞で記録された57秒8のみだった。札幌競馬場の芝コースが創設されたのが89年(88年まではダートしかありませんでした)だから、今回のタイムは
史上最速タイとなる。
これだけ前が速いペースで行ったのだから、当然
差し馬に有利。実際、②着
アロマティコ、③着
スマートレイアーは、馬場の内外で分かれてはいたが、いずれも差してきた馬だった。
ところが、勝った
キャトルフィーユは早めに進出して残り200mで先頭に立つと、そのまま先頭を譲らなかった。内から来た
アロマティコ、外から迫った
スマートレイアーも残り50mでは前を交わせそうな脚色だったし、実際この2頭に騎乗していたそれぞれの騎手(
アロマティコは
三浦騎手、
スマートレイアーは
池添騎手)が、レース後にそういった趣旨のコメントをしている。この展開で勝ち切ったことの価値は高いだろう。
それ以外にも、この勝利の価値を高める要素がある。正直なところ、これまで
キャトルフィーユのことを
「ハンデキャップホースでは?」と思っていた。それはこれまで芝重賞で
斤量54kg以下だと[0.3.0.2]、55kg以上で[0.0.0.4]だった自身の成績だけでなく、本馬の半姉
レディアルバローザも重賞2勝をハンデ54kg以下の時に挙げていたから。
ところが、今回は別定戦で、3歳馬
マーブルカテドラル(52kg)以外が55kg。この条件で勝ち切ったことで、
ひとつの壁を越えたと思われる。
これまでに4角4番手以内で芝重賞初制覇を飾ったディープインパクト牝馬は延べ3頭(
ジェンティルドンナ、ドナウブルー、ヴィルシーナ)いたが、いずれも
その後にG1で連対している。
キャトルフィーユは一口クラブ所属のため、クラブの規約で来年春に現役を退く予定となっているが、今の
キャトルフィーユならこれに続ける可能性は十分にあるだろう。今後に注目したい。
ちなみに、この日札幌で開催された特別競走4レースの勝ち馬のうち、連闘での出走となった9レースの
アリュージョンを除く3頭は
函館のウッドチップコースで追い切りを行われていた馬(10R
コスモシャンハイ、12R
コンサートレディ)だった。
札幌で調教を行う場合、そのコースは芝かダートしかないのに対し、
ウッドチップコースで調教を行える、いわゆる
“裏函”(札幌開催中に函館で調整を行うこと)の有用性はすでによく知られている。今年の札幌開催は始まったばかりで、今後もこれは有効と思われるので、調教欄を見る時はどこで追い切りを行ったかにも目を向けるといいかもしれない。