そこには「負けられない戦い」があったようだ
文/編集部(M)、写真/森鷹史
「負けられない戦い」というフレーズが乱用されていることに対して、
馬迷男・
八木たかおさんが今週更新の
『馬迷男の挑戦』の中で苦言を呈していた。確かにその通りだと思いますね。某テレビ局の番組内でも、何度も
「負けられない戦い」というフレーズが使われていた。このままだと、10月5日の
フランスでの戦いにも乱発されるかもしれない……。
八木さんは
「そもそも、負けてもいい戦いって少ない」とも記されていたが、あえて言えば、
実績上位馬の秋初戦はその数少ない
「負けてもいい戦い」なのではないかと思った。
大目標が先にあるのは明白で、「お釣りを残した仕上げ」で「お釣りを残したレース」をしても、先を見据えていることを考慮すれば大きく
非難されることはないだろう。
『負けてもいい戦いがそこにある。秋初戦』。戦う前にわざわざ
自己申告したら、怒られそうですが(笑)。
皐月賞馬で
ダービー②着の
イスラボニータは、この先の大目標を考えれば、この
セントライト記念でたとえ負けたとしても、それは
大きな問題ではないだろうと思っていた。
ところが、どうだ。先頭でゴールした後の鞍上・
蛯名騎手は、
けっこう派手なガッツポーズをしていた。今回は
「負けてもいい戦い」なのでは?と思っていたのは私だけで、陣営は
「負けられない戦い」として臨んでいたようだ。そして、レース内容も結果も、
完璧だったのだろう。
蛯名騎手のガッツポーズがそれを表していた。
イスラボニータは
ダービー②着の後、距離適性を考慮して、今秋は
天皇賞・秋を目標にすることが「第一本線」として発表された。ところが、その後は流動的になり、
天皇賞・秋とも
菊花賞とも、正式には発表されなくなった。
今回の
セントライト記念は2200mで、ここで敗れれば2000mを超える距離では勝っていないことになる。となれば、3000mの
菊花賞ではなく、2000mの
天皇賞・秋へ向かう公算も高まったのかもしれないが、それは
払拭された。
ダービーは敗れたとはいえ3/4馬身差の②着で、
外枠(7枠13番)という面もあった。事実、3歳になってから敗れたのはその
ダービーだけで、今回も②着以下に
1馬身以上の差を付けたのだから、たとえ未知の3000mでも、同世代相手の
菊花賞へ向かわない理由はないと言えるだろう。
イスラボニータは
フジキセキ産駒で、これまで同産駒で
芝2200m以上の重賞を勝った馬はいなかった。のべ
83頭の挑戦で初めて勝利を収めたのが今回の
イスラボニータで、
イスラボニータは
フジキセキ産駒として初の
芝2000m以上のG1勝ち馬でもある。
菊花賞での
フジキセキ産駒は06年の
ドリームパスポート(クビ差②着)が最高成績だが、数々のデータを打ち破ってきた
イスラボニータなら覆せるかもしれない。
フジキセキ産駒は現3歳が
最終世代で、その中から過去のデータを覆す馬が現れたわけだ。同産駒の
菊花賞挑戦も今年がラストになるわけだから、やはり
挑む姿を見てみたいのが素直な気持ちだ。もしそこで勝てば、今後の
フジキセキ系の枝葉もより広がりがもたらされるだろう。
今回の
セントライト記念に対して、
「負けられない戦い」との気持ちで挑んだのは、
重賞実績の乏しい上がり馬の方が強いかと思われた。ここで好戦してこそ大舞台での飛躍も見えてくるわけで、その心情を察知してか、
サトノフェラーリや
ステファノスといった馬が重賞勝ちのある馬を押しのけて上位人気に推された。
3番人気の
サトノフェラーリと5番人気の
ステファノスは中団~後方で脚を溜めて直線に向いたが、前が
壁になって追い出せない場面があった。その時にはすでに
イスラボニータと
トゥザワールドは抜け出していて、
タガノグランパと
ラングレーも追い出されていた。
ステファノスは何とか捌いて最後に急追したが、結果的には脚を余す形で④着という結果になった。
密集する馬群の中からでも一瞬の脚で抜けてこられるから
重賞戦線で活躍できるのか、それとも、単純に
運・
不運の差なのか? 明暗を分けた部分はよく分からないが、
重賞実績のある馬にはやはり
何かがあるのだろう。
ダービー出走馬が6頭も名を連ねただけあって、今年の
セントライト記念は
実績上位馬の底力を見せられた思いだった。