2強の明暗がくっきりと分かれた前哨戦、本番では!?
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/稲葉訓也
驚くほどに明暗がくっきりと分かれた。この日、
凱旋門賞に出走するため、フランスへ着いた
ハープスターが、今まで先着を許した2頭による直接対決となったトライアル。
阪神JFを制した2歳女王の
レッドリヴェールに、
オークスに続く2冠を狙う
ヌーヴォレコルト。単勝オッズもこの2頭が2倍台で、あとは10倍以上と完全な
「2強」状態になっていた。
レースは前半1000mが59秒8の平均ペースだった。インの好位で脚をためる
ヌーヴォレコルトに対し、馬群の外めを中団から追走する
レッドリヴェール。両馬とも今までのレースより少し前めの位置で運んだ。
そして、直線入口で抜け出してきたのは
ヌーヴォレコルトの方。ラスト1ハロン手前で逃げる
リラヴァティをとらえると、最後まで脚色はまったく鈍らぬまま、ゴール板を駆け抜けた。まさに
完勝と言っていい走り。一方の
レッドリヴェールは鞍上の
福永騎手が必死に手綱を動かし、加速を促しても、最後まで本来の末脚は影を潜めたまま。まさかの
⑥着に沈んだ。
これで
ヌーヴォレコルトは重賞連覇。正直、
ハープスターの追撃を封じ込めた
オークスは
岩田騎手の絶妙な手綱さばきが大きい、と思っていた。確かにこの日も前につけた馬、内を通った馬が残りやすい阪神の芝コースで、好位にスッとつけ、直線では早めに前をとらえる
巧みなエスコートは光った。
ただ、
女王の風格すら感じさせる余裕の勝ちっぷりからは大きな地力強化を感じずにはいられない。父は今春のクラシック戦線で産駒がG1・2勝を挙げたが、自身の競走生活は遅咲きだった
ハーツクライ。血統面から考えても、ひと夏を越した
大きな成長は必然だったかもしれない。
秋華賞前の前哨戦。しかし、陣営はしっかりと仕上げてきた。1週前には
岩田騎手を美浦に呼び、追い切りに騎乗してもらった。
「いい動きでした」。主戦に確かな自信を刻み込ませ、大きな成長を実感してもらうと、輸送を控えた今週はサッと軽めの微調整。青写真通りの調整過程でつかみ取った勝利だった。
さらに大きいのは今後、栗東に残って、
秋華賞へ向けて調整するという点。かつて栗東滞在の関東馬といえば
アパパネ、
ブラックエンブレムなど、このレースでしっかりと結果を出している。状態だけでなく、環境面での上積みも見込める上、前哨戦で自在に立ち回れることを証明した今、
ハープスター不在の
秋華賞では
不動の主役と言っていいのではないだろうか。
そして、まさかの
完敗に終わった
レッドリヴェール。正直、⑥着という着順以上に
不安の残る内容であるように感じた。デビュー以来、初めて連対圏を外す大敗を喫した前走の
日本ダービー。ただ、この時は東京への長距離輸送で体を減らし、実際に現地で見た
レッドリヴェールは体つきがいつも以上に細く、カリカリしているように見えた。個人的には敗因が明確なレース。そう思っていた。
しかし、今回は違う。8月中旬に帰厩後、徐々に負荷を上げていく調整過程は予定通りのモノ。2週前には
ジャスタウェイ相手に胸を借りるなど、しっかりと攻めの調教を行ってきた。
「追い切るたびに良くなっているし、順調にきているね」と
須貝調教師は笑みを浮かべていた。そして、馬体重もプラス10キロと戻って迎えた一戦。大崩れはないと思っていたが…。
今、
細かい敗因が頭に浮かんでは消えている。例えば馬群の外を回らされたこと。ただ、目の前にいた④着の
ブランネージュに直線で0秒4差も離されている。または普段より位置取りが前だったことか。しかし、本番が京都内回りで行われる
秋華賞ということを考えれば
不安だけが残る。
もちろん、ポン駆けが利くことは今までの成績で証明済み。はっきりとした
敗因が分からないまま、直線でまったくギアが上がらずに、身上の長く、いい脚を繰り出せなかった
レッドリヴェールを見たのは初めてのことだ。
秋華賞までは中3週というローテ。これだけ間隔を詰めての実戦は初めてになる。今までポン駆け巧者のイメージが強いが、それは2戦目以降の成績が尻すぼみしたワケではなく、単純に使っていなかっただけ。今回のひと叩きで心身両面での上積みが加わる可能性だって十分にある。
本番では今回、人気を分け合った
ヌーヴォレコルトを追う立場ということになるだろうが、今まで
阪神JF、
桜花賞も
ハープスターに対しての逆転を狙う立場で好走を続けてきた。この
完敗が
眠っていた闘争心を呼び起こし、本番では本来の
レッドリヴェールが戻ってくることを期待したい。