あらゆる状況が味方、そこで強みを活かせた
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史
さまざまな要素が積み重なり、1頭の勝ち馬が出る。
スプリンターズSを見終えた(そして外れた)今、その思いを強くしている。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、あらゆる事実があって
スノードラゴンの差し切りが起こった。そんな気がしている。
どういうことか。まずは中山改修により新潟で行われたということである。それも夏場から10週も開催され、そのオーラスが
スプリンターズSだった。芝が明らかにはげているような箇所もなく、新潟競馬場の
馬場造園課はいい仕事をしたと思うが、さすがに最終週とあって力を要する馬場となっていた。普段の非常に軽く、時計が出る新潟からは想像もつかなかったが、ダートでも走ったようにパワーも兼ね備える
スノードラゴンにとっては好都合だった。
そして、本降りではないが新潟は小雨がパラついていた。新潟は指折りの水はけのいい芝ではあり、実際に良馬場だったが、多少、いつもの芝より水を含んではいたのではないか。
スプリンターズSの前の芝のレースも時計を要していたし、これは間違いないと思う。不良馬場の
高松宮記念で②着だった
スノードラゴンにとって、これまた
願ってもない状況だった。
さらに
北村宏司騎手が6Rで落馬し、
ダッシャーゴーゴーが
勝浦正樹騎手へと乗り代わったことも遠因としてありそうだ。押してハナを取りに行った
ダッシャーゴーゴー。決して逃げ馬ではないのだが、スタートしてみて
勝浦騎手なりの手応えがあったのだろう。
これによって
ハクサンムーンは2番手追走を強いられ、直線を向いて自分から仕掛けにいくことになった。ぐっと負荷が掛かったはずで、これが最後に失速した要因とみる。で、パワータイプの差し馬(つまり
スノードラゴン)が台頭したのだ。
北村宏騎手ならどんな乗り方をしたか。
タラレバは禁物と承知して言えば、
ダッシャーゴーゴーは好位を追走したかもしれないし、ならば
ハクサンムーンが主導権を握って、直線でもう少し踏ん張っていたのかもしれない。
つまり、
周囲のさまざまな出来事がことごとくスノードラゴンにとってプラスとなるように働いた。そんな気がしてならないのだ。
誤解のないように言うが、決して
スノードラゴンが恵まれたというわけではない。
「こういう状況下(馬場が荒れている、時計が掛かる、パワーが必要)なら強い」というカードを持っていたことが
スノードラゴンの強みだったと言えるのだ。
もちろん、馬の強さを信じて周到にレースを進めていた
大野拓弥騎手も褒められていい。後方からスタートして徐々に外からポジションを上げた。決め手はあっても内回りでは、さすがに4コーナーでそれなりの場所にいなければならない。そのあたりの位置取りが素晴らしかったと思う。上がり3F33秒9はメンバー中3番目。4角でどこにいれば届くか、計算はぴたりだった。
好漢・大野騎手もいつの間にか28歳、10年目だそうだ。決して人気の馬にばかり乗っているわけではないが、上位争いにはコンスタントに顔を出す。これはいい騎乗技術を持っているからに他ならない。
関係者によれば、馬への当たりも柔らかく、乗った後、この馬にはこんな特徴がある、こういう競馬をさせてみたらどうか、など、いろいろ考えてアドバイスもするのだそうだ。先に、あらゆる状況がすべて
スノードラゴン向きに働いたと書いたが、頑張ってきた
大野騎手がそういった事象を呼び込んだのか、という気がする。
②着
ストレイトガールはどうも運に見放されている。2戦続けて全力で追えない競馬が続いた。今回は馬群からしっかり伸びてみせたが、大外に1頭、切れる勝ち馬がいた。
10キロ増でも太くは見えなかったし、ここに向けて最高の仕上げを施したことは分かった。ここが秋の大目標だったとは思うが、次に
チャンスの神様がほほ笑むとすれば、この馬ではないか。
マイルCSあたりに出てくれば面白いと思う。距離はギリギリかもしれないが、軽くて時計の出る芝の方が絶対にいい。
オッと思わせたのは⑤着
ベルカント。直線半ば、一瞬、勝ち切るかという勢いがあった。折り合いもだいぶマシになったし、まだ楽しめそうだ。