3番人気でも「金星」、三冠最後に第4の馬が登場
文/浅田知広、写真/森鷹史
今年の
チューリップ賞あたりの時点で
「秋華賞ではヌーヴォレコルトが単勝1倍台になります」と言ったら、どれほどの人に信じてもらえただろうか。
なにせ牝馬路線は
ハープスターと
レッドリヴェールの
2強ムード。まだ
「秋華賞を勝ちます」なら、展開その他であり得る話だが、たとえ2頭が不出走でも単勝1倍台はないだろう、という3番手グループの一角を占めるに過ぎない馬だった。
しかし、
桜花賞でその
2強に0秒1差の競馬をすると、
レッドリヴェール不在の
オークスでは
ハープスターを撃破。さらに秋を迎え、
ローズSでは
レッドリヴェール(⑥着)に5馬身近くの差をつけて優勝と、見事に
2強を下したのだ。土曜朝の単勝1.1倍はさすがに行き過ぎだとしても、最終オッズ1.5倍には値する成績を残して迎えた
秋華賞だった。
もっとも、簡単に人気通りの決着ともならないのがこの
秋華賞。過去10年の1番人気は
[2.1.3.4]で、むしろ2番人気が
[6.2.1.1]の好成績。そんな疑いをかけた上で考えれば、この京都内回りで、直線の短いコースを経験していない馬が単勝1倍台となれば、
少々怪しげな雰囲気も感じられた。
さらに、発表された馬体重はプラス10キロ。単に
ヌーヴォレコルト自身のことだけを考えれば良さそうなものの、
秋華賞創設以来、10キロ以上のプラス体重は
[0.0.1.31]である。
しかし、そうはいっても他に強く推せる馬が少ないからこその単勝1.5倍でもあり。もちろん逆転の筆頭候補は
レッドリヴェールの復活だが、さすがにそれは妙味が薄い。それ以下になるとなにを買ったらいいのやら、と
当方も悩んでいるうちに締め切り間際。過去に
「ドカン」とやった実績のある
ローズS③着馬(99年
ブゼンキャンドル12番人気①着)、
リラヴァティが同じ12番人気だったのを発見し、勢いで買ってレースを迎えてしまった。
その
リラヴァティが逃げる展開も考えられたが、枠順の差もあってハナを切った
ペイシャフェリスのペースは1000m58秒0。逃げ1頭、離れて好位グループ7頭の先頭が
リラヴァティ、さらに離れて中団以降の集団を先導するのが3番人気の
ショウナンパンドラ。
ヌーヴォレコルトや
レッドリヴェールもこの一団で、縦長の展開となって3コーナーを通過した。
3~4コーナー中間では、内外やや離れて
ショウナンパンドラと
タガノエトワール(4番人気)が進出を開始。その直後で内から外に切り替えたのが
ヌーヴォレコルト、これをマークするように動いたのが
レッドリヴェールだった。
そして直線。先頭の
ペイシャフェリスを
リラヴァティが交わした瞬間の脚色が良く、一瞬
「おっ」と思うところもあったがここまで。これに内から襲いかかったのは、道中で次のグループを先導していた
ショウナンパンドラ。そして外からは
タガノエトワール、さらに
ブランネージュ(5番人気)と
ヌーヴォレコルトも脚を伸ばした。2番人気の
レッドリヴェールこそ伸びあぐねていたものの、なんのことはない、その他上位人気馬による残り200mからの大熱戦だ。
中でももっとも脚色が良く見えたのが、1番人気の
ヌーヴォレコルトだった……のだが。
チューリップ賞や、前走の
ローズSで先頭に立つ瞬間と同じように、内へ内へともたれ加減で、鞍上の
岩田騎手も必死に立て直しながらの追撃。おそらくプラス10キロの馬体重より、右回りの影響が大きいのだろう。これで
タガノエトワールを交わし切れず、抜け出して内に切れ込むこともできなかった。
一方の
ショウナンパンドラは、直線入口で
ペイシャフェリスと
リラヴァティの狭い間を一気に突けた瞬間に、勝利をぐっと引き寄せたと言えるだろうか。全体のペースが速かった上、自身も早めに動いただけに決して楽ではなかったはずだが、レースのラスト1ハロンは11秒8。ゴールまでしっかりと伸びきって、
初の重賞タイトルをG1・秋華賞で手中にした。
春は
エルフィンS②着、
フラワーC⑤着、そして
スイートピーS⑤着と、すべて1番人気で敗退し、クラシック出走はかなわなかった
ショウナンパンドラ。前走の
紫苑Sでようやく
秋華賞の出走権は得たものの、これも②着と勝ち切れないレースが続いた中では、3番人気でも
「金星」だ。
仮に今回②着なら、なんとなくおじの
ステイゴールドっぽさが出てきたところ。牝馬で言えば、おばの
レクレドールが04年に
ローズS①着後、この
秋華賞では
スイープトウショウの⑥着に
完敗していた。
加えて言えば、00年の創設以来
[0.0.2.51]の
前走・紫苑S組だったが、そのあたりをすべて払拭しての勝利となった。こういった
ひとつの大きな勝ち鞍が、その後の大きな変わり身に繋がることもあるものだ。
三冠最後に登場した第4の馬。今後の牝馬路線で、果たしてどんな活躍を見せてくれるのだろうか。