成長力ナンバーワンであることを証明してみせた
文/安福良直、写真/森鷹史
同世代でもっとも実績のある馬(
イスラボニータ。いや、
ハープスターか?)が不在の
菊花賞。近年ではよくあるパターンで、こういうときは往々にして、春のナンバー2だった馬よりも夏に上がってきた馬が勝ったりするものではあるが、それにしても強かった今日の
トーホウジャッカル。
内から迫る
サウンズオブアースを半馬身差でねじ伏せ、③着以下にはさらに3馬身以上の差をつける完勝。しかも、芝3000m・3分1秒0は、
ナリタトップロードの記録を1秒5も更新する
驚異の日本レコード。今日に関しては「
イスラボニータや
ハープスターがいればどうだったか」なんて言わせないほどの強さでしたね。
レース内容も堂々としたもの。2番枠の好枠から、先行集団のすぐ後ろにつけて折り合いに専念。すぐ前が
トゥザワールドで、すぐ後ろが
ワンアンドオンリーという位置取りも良かったが、とにかく折り合いがついていたのが最大の勝因だろう。
思えば前走の
神戸新聞杯では、直線で内にささってまともに追えず、いかにもまだキャリアが浅いという感じだったのだが、それがウソのような大人のレースぶり。これが
上がり馬の成長力なのだろうか。
勝負どころでの捌き方も見事だった。
菊花賞の勝負ポイントと言えば2周目3コーナーの下り。どの馬も仕掛けてくるし、今日のように一団の展開で進むと馬群がゴチャつくものだが、
トーホウジャッカルはうまく外に出して、4コーナーで前を行く
マイネルフロストの外に並びかけることができた。
トゥザワールドも同じ位置を取りに仕掛けてきたが、ここでの争いを制したところで勝負アリ。直線は馬場の真ん中から堂々と抜け出して、まさに
横綱相撲だった。
②着の
サウンズオブアースも、道中の折り合いはバッチリついていたし、有力馬たちの動きを後ろから見ながら、最後は内に空いたスペースを突っ込んでよく伸びた。一発逆転狙いの作戦がうまくはまったが、
横綱相撲の競馬をした馬に負けたのでは仕方がない。でも長距離適性の高さは見せたし、今後、
有馬記念や
春天では期待できるだろう。
一方、人気を集めた
ワンアンドオンリーと
トゥザワールドは、2周目に入ってもなかなか折り合いがつかず、直線で伸びを欠いてしまった。外枠で前に馬を置いて進めることができなかったことが敗因だろうが、それにしても見せ場も作れないとは…。
来週(
天皇賞・秋)の
イスラボニータがどんな走りを見せるかにもよるが、今年の3歳世代は、春までトップグループにいたメンバーのレベルがそれほど高くないのかもしれない。むしろ、先週(
秋華賞)の
ショウナンパンドラや前日(
富士S)の
ステファノスのように、春は期待ほど走れなかった馬が夏以降にグングン成長し、
トップグループがどんどん入れ替わる世代になるのかもしれない。
その中でも、
成長力ナンバーワンを見せつけたのが今日のトーホウジャッカル。なにしろ、デビューしたのが
ダービー前日の5月31日。その日は⑩着と大敗し、初勝利を挙げたのは7月に入ってから。このときも単勝44.3倍の8番人気で、②&③着馬とはハナ、アタマ差の接戦だった。
いかにも恵まれて勝ったように思えるが、レース後の
酒井騎手のコメントを読むと、
「スタッフの期待が大きかった」、
「さらに良くなる余地がある」と、すでにかなりの手応えを感じていた模様。8月の2勝目後のコメントも同じように期待の高さをうかがわせるものだったし、今日も
酒井騎手は自信満々でレースに臨んでいたのだろう。
毎週、競馬雑誌を買っている者としては、やはりレース後のコメント欄はよく読んでおくべきだな、と改めて思い知らされました。
さて、今日は
文句なしの強さを見せつけた
トーホウジャッカルだが、今後はどういう道を歩んでいくのだろうか。
菊花賞までの道のりで言うと、7月に初勝利を挙げて
神戸新聞杯③着で出走権を取った2010年の
菊花賞馬ビッグウィークにかなり似ているが、
菊でのタイムは今日の方が5秒以上速い。
また、姉の
トーホウアマポーラが1200mの
CBC賞を勝っているように、必ずしも長距離血統とは言いがたい。おそらく長距離だけの馬ではないだろう。元気ならば次はぜひ
ジャパンCに挑戦して、
今日の強さが本物であることを見せてほしいところだ。