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“遅れて来たヒーロー”が表舞台に戻ってきた
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也


インカンテーションが昨年のレパードSを制した時の『レースインプレッション』で、浅田知広氏「G1・Jpn1制覇の可能性を感じさせるに十分な勝利」と書いていた。ところが、続くラジオ日本賞は⑥着、みやこSは②着に好走したものの、ジャパンCダートでは⑭着に大敗。「あれ?」と首をかしげた方も少なくないだろう。

ところが、インカンテーションはここで終わらなかった。約8ヵ月ぶりのエルムSで③着に好走し、続くBSN賞ラジオ日本賞を連勝し、このレースで重賞2勝目をマーク。昨年敗れたレースを連勝したことで、より強くなって帰ってきたことを印象づける結果となった。

今回は前半1000m通過が61秒3で、これは過去5回でもっとも遅いタイムだった。小雨模様で湿った馬場ということもあり、これは前が有利か……と思いきや、前に行った2頭は直線での伸びが鈍く、外から飛んできたのがインカンテーション。後続にビッシリ来られて先行馬に息が入りづらい展開だったとはいえ、このペースで差し切ったことの価値は高いだろう。

マンガやドラマには“ヒーローは遅れてやってくる”といわれるストーリー展開がある。ピンチに陥っても印籠ひとつで悪人をひれ伏させる、『水戸黄門』を思い出していただければ分かりやすい。王道でベタではあるが、爽快感を残せるからこそ昔から好まれるのだろう。

ダートのOP路線は1600mを中心として、それより短い距離と長い距離、大きくはふたつの路線に分かれる。芝と違って路線の数が少ないために、それぞれのレースが点ではなく一本の線で結ばれ、さながらひとつのストーリーができあがる

それは今年も例外ではなく、ダート中長距離路線は3月のマーチS以降、4歳馬を中心として同じようなメンバーが入れ替わり立ち替わり好走してきた。だから、それぞれのレースを見ると、ひとつの“流れ”が見えてくる。

今回のみやこSに出走したメンバーのうち、おもな古馬ダートOPで掲示板内に入った馬を見ると、5月の平安Sまでは以下のような馬が上位を占めていた(地色がついているのは複数名前が挙がっている馬)。

マーチSソロル①着、クリノスターオー⑤着
アンタレスSナムラビクター①着、ニホンピロアワーズ③着
平安Sクリノスターオー①着、ソロル②着、ナムラビクター⑤着

ここまではソロル、クリノスターオーなどが優勢で進んでいたことが分かる。ところが、インカンテーションが復帰した7月のエルムS以降は様相が変わった

エルムSクリノスターオー②着、インカンテーション③着
BSN賞インカンテーション①着、ランウェイワルツ②着、ヴォーグトルネード③着
ラジオ日本賞インカンテーション①着、サトノプリンシパル③着
シリウスSクリノスターオー①着、ナムラビクター②着、サトノプリンシパル④着

クリノスターオーは一貫して好調を維持してきたが、春シーズン好調だったソロルエルムS⑦着、シリウスS⑩着、今回も⑨着と崩れている。一方、春シーズンは休養していたインカンテーションが一気に台頭してきたことが分かるだろう。

劇画風に言えば、昨年のJCダートで⑭着に敗れた主人公。あまりのショックでレースに出られない日々が続いたが、ヒロインと出会って心を癒し、病気の少年と交わした約束を胸にエルムSで復帰、破竹の連勝で春の実績馬を蹴散らす、という感じ。いい感じのストーリーでしょう?(注:フィクションです)

インカンテーションはこのまま頂点を極められるか? もしかしたら、本当の“遅れて来たヒーロー”エルムSを勝って以来休養していたローマンレジェンドなのかも? 今年のドラマがどのような結末となるか、フィナーレはチャンピオンズCだ。