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大舞台に強い厩舎の戦略が見事に花開いた
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/森鷹史


息を飲むような叩き合いだった。

最後の直線。内ラチ沿いを器用に立ち回り、先に抜け出したヌーヴォレコルトに、こちらも内でジッと脚をためていたラキシスが外から迫る。ラスト100mほどのマッチレースを制したのは、昨年②着だった悔しさを乗せるようにグイッとひと伸びしたラキシスだった。

激闘を制した川田騎手の姿を見ながら、ふと思い出したのは1年前のこと。

結果的に除外になった秋華賞当週の取材で「何とか入ってほしい」と出走を熱望し、条件馬の身で挑んだこのレースでも格上挑戦ながら確かな手応えを口にしていた。早い段階から高い資質を感じ取っていたのだ。待ちに待った初タイトルはG1の大舞台。最高の形で思いは結実した。

そんな川田騎手をレース後の検量室前、笑顔で出迎えていたのが角居調教師「切れもあるけどパワーもある」と表現するディープインパクト産駒が成し遂げた大仕事は、厩舎にとっても大きな意味があった。

角居厩舎デルタブルース菊花賞を制した04年から昨年まで10年連続でG1勝利を挙げていた。唯一、JRAのG1勝ちがなかった12年もルーラーシップで香港のクイーンエリザベス2世Cを制すなど国内外を問わず、大舞台で結果を残してきた。

しかし、今年は地方での交流重賞ならあるが、中央や海外ではG1未勝利。偉大な記録が途絶えるところを「孝行娘」が救ってくれた。これでJRA重賞は60勝目、そのうちG1・20勝。海外G1での5勝も含め、大舞台での勝負強さは驚異的とも言えるレベルだ。

その数字はもちろん、偶然の産物ではない。要因はラキシスが歩んできた、この1年の脚取りからも読み取ることができる。

今年に入って4戦。ヴィクトリアマイルには参戦したが、あとの3戦は今回と同じ2200mで2戦、2000mで1戦。牝馬限定重賞といえば、1400mから1800mあたりの距離がほとんどだが、この馬の高い中長距離適性を重視して、例え強い牡馬相手で厳しいレースを強いられるとしても、積極的に起用してきた。

しかし、その牡馬相手のレースでも④②②着。強敵相手に揉まれることで地力をつけてきた。エリザベス女王杯は過去10年、京都大賞典から転戦した組が[1.2.0.3]で、天皇賞・秋から転戦した組が[2.1.1.0]と好走しているG1。レースの傾向ともしっかりマッチした1年を送ってきたとは言えないだろうか。当初から「大目標」と掲げてきた一戦で結果を出すため、しっかりと下地を作り、見事に花開いた

このレースで例年、話題となるのが3歳と古馬との世代レベルについて。今年の1番人気は3歳馬のヌーヴォレコルトだった。結果は好位からの正攻法で②着。ただ、最後は勝ったラキシスの目標にされた分もある。十分に中身の濃い走りを見せたと言っていいだろう。

G1・2勝目こそ挙げられなかったが、G2・1勝にG1で②着2回。樫の女王としての強さをしっかりと体現した秋だったように思う。ただ、3歳勢は6頭の参戦も、あとは秋華賞馬ショウナンパンドラ(⑥着)をはじめ、掲示板を確保できず。内をうまく通った組が上位を占める中、外めを通りながら後方から一気に脚を伸ばしてきた③着のディアデラマドレなど古馬勢が上位を独占した。

確かにジャパンCでの復帰を目指しているエースのハープスター不在だったとはいえ、現3歳世代の牝馬は昨年から常にハイレベルと言われてきた。そのことを考えると、余りに物足りない成績に映る。

特に今秋、まったくいいところを見せられなかったレッドリヴェール。もともと、カイバ食いの悪さやテンションの高さなど調整に苦心するタイプではあるが、今までは厩舎サイドの様々な工夫で桜花賞まで4戦3勝、②着1回とほぼ完璧な成績を出してきた。

それが、だ。日本ダービー以降は4戦すべて着外。しかも、ふた桁着順が2度。これほどまでのスランプは正直、まったく想像もつかなかった。「牝馬は一度、リズムを乱すと非常に難しい」とは取材先で何度も聞いてきた言葉。そのことを古馬とはいえ、好位追走からまったく見せ場を作れずに⑫着と沈んでいったメイショウマンボの姿も重ね合わせて、痛感する一戦だった。