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120点の騎乗をした岩田騎手に導かれて3度目の正直で悲願成就
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史


岩田騎手が表彰台でインタビューに答える姿を見て、やはりこの騎手は凄いとあらためて感じた。何が凄いのかと言えば、競馬脳というか、判断を求められた地点における的確なジャッジである。今回のマイルCSでもすべての判断が理にかなっていたし、だからこそ8番人気ダノンシャークでの優勝を引き寄せることができたのだ。

空前の混戦。それは戦前、誰もが認めていた。ハイレベルで能力が接近し、どの馬が勝ってもおかしくない。自分はこう考えた。スタートから勝負の綾をいくつも積み上げていく。1つでも誤ったジャッジをした馬は圏外へと去る。サバイバルだ。ミスジャッジが許されない戦いはゴール前まで続き、最後に最善手を打った馬と騎手が勝つ。

まずは主導権争いが強烈なポイントとなった。8枠15番のミッキーアイル。これを見て、逃げの手をにおわせたホウライアキコ陣営。その通り、ホウライアキコが行った。

いつもなら二の脚、三の脚でかわしにかかるミッキーアイルだが、捕まえにいったら明らかにオーバーペースになりそうと考え、2番手追走に徹した。ミッキーアイルホウライアキコの枠が逆なら、こうはならない。5F56秒7は過去10年で最速タイ。4コーナーで先頭を奪ったのが、せめてもの意地。ミッキーアイルは圏外へと去った。

ダノンシャークを誘導する岩田騎手の判断は完璧だった。向正面でインに空間ができた瞬間、サッと飛び込んだ。コーナーを回る際、最内でコースロスを防いだ。実力接近の混戦では、こういう気遣いが最後に勝負を分ける。スタミナ消費を最低限に抑え、8番人気の伏兵は4コーナーを迎えた。

と、ここで岩田騎手の馬上の雰囲気が変わったように自分には見えた。前にいるフィエロにターゲットを絞ったように感じた。「手応え十分のこの馬を差し切れば勝てる!」。そう確信したのだと思う。このジャッジも正しかった。マークする相手を決めた時の岩田騎手は強い。真一文字という表現がぴったりの追い方で、獲物を捕らえにかかる。まるでハンターだ。

フィエロ福永騎手との差を徐々に詰め、最後は得意のインへ。この判断もロスがない。最後の最後にハナ差差し切った。いくつも求められたジャッジに正解を出し続け、最後にフィエロを差すという最善手を力強く打ち、真っ先にゴールへと飛び込んだ。

もちろんダノンシャーク自身も勝つだけの資格は十分にあった。昨年のこのレース1番人気馬。ただ、昨年の富士Sでの①着を最後に白星から遠ざかっていたことが大一番での人気急落を招いた。馬の気持ちになって考えると「そりゃないぜ」というところだ。

なぜなら、安田記念(④着)も関屋記念(②着)も富士S(⑦着)も直線でいったんは先頭に立っている。勝ちにいく競馬はしているのだ。勝ちにいっている分、目標にされ、かわされてきたのだ。「頑張って見せ場をつくってきたのに、こんな人気かい? ならば走っちゃうよ」とチクリと言いたい気分だったのではないか。

厩舎の仕上げも万全だった。抜群の気合乗り。パドックでは気配の良さが目立った。3度目のマイルCS。まさに3度目の正直という仕上げと走りだった。

②着フィエロは責められない。パドックでは毛ヅヤの良さを誇示。中団で流れに乗り、直線を向いて先頭に立った時は勝ったと思わせた。福永騎手は100点の騎乗だったと思う。ただ、勝った岩田騎手120点の騎乗をした。それだけだ。重賞初勝利がG1という今秋のトレンドに乗れなかった格好だが、まだまだチャンスはある。

③着グランデッツァは評価されていい。厳しいペースの中、3番手追走から懸命に踏ん張った。上位勢で前めにいたのは、この馬だけだ。スローからの上がり勝負は不得意で、こういう厳しめのペースが合う。スピードとスタミナを半分ずつ出しながら、力任せに押す競馬というのか。表現が難しいが、このような勢いに任せた競馬の方がいい。適性が分かった以上、今後は逃げの手も模索していいと思う。

トーセンラーは④着。外から伸びてはきたが時すでに遅し。外枠が影響した可能性は大きい。⑧着ワールドエースは出遅れた上に勝負どころで前が詰まった。見直せる余地はある。