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“サイレンススズカっぽい”のは、トーセンスターダムの方だった!?
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也


圧倒的な1番人気を集めたのはここまで5戦5勝のエイシンヒカリ。前走のアイルランドTでは直線で外ラチ沿いまでヨレたが、それでも押し切るという破天荒な内容で、逃げという脚質からもサイレンススズカを思い出した人は多かったようだ。

ただ、自分はサイレンススズカって、デビューから順風満帆な競走生活だったっけ?」という感じで、そんな声に違和感が少しあった。

というのも、エアグルーヴに敗れた天皇賞・秋(⑥着)、タイキシャトルに敗れたマイルCS(⑮着)など、サイレンススズカの3歳時は強い相手と戦っていろいろ試行錯誤しながらキャリアを積んでおり、逃げ戦法を確立して連戦連勝となったのは4歳になってからだった。

その違和感は現実となってしまい、このレースでもハナに立ったエイシンヒカリは直線半ばで失速。それに連れて先行勢が総崩れとなる中、道中は後方にいたトーセンスターダムが馬場の真ん中から脚を伸ばし、ゴール寸前で差し切る結果となった。

トーセンスターダムはデビューから3連勝を飾ったが、休み明けで挑んだ皐月賞は⑪着、ダービーは直線で内ラチに激突して⑯着。秋は神戸新聞杯⑦着を挟んだ菊花賞でも⑧着と、強い相手と戦って跳ね返されながら、ここで久々の重賞2勝目を飾った。脚質は違うが、実績を見るとこちらの方がサイレンススズカっぽい気さえしてくる(笑)。

ここで思い出したのが、サラブレ本誌の「一鞍専心」で、田辺騎手「馬がそのクラスで戦いながら周りの馬に認められていくことを、人間が“クラス慣れ”と呼ぶのではないか」という趣旨の話をしていたこと。

馬は集団で生きる動物だから、この話には説得力がある。人間が「この馬は戦ってきた相手が違う」というものを馬が感じているのだとしたら、強い相手と戦ってきた“自信”のようなものが馬にあっても不思議はないのではないか。

トーセンスターダムエイシンヒカリは同じディープインパクト産駒の3歳馬。トーセンスターダムエイシンヒカリを直線で交わす時に、「まだお前には負けられないよ」と言っていた……かもしれない。

デビュー以来一貫してトーセンスターダムの手綱を取っている武豊騎手は、レース後に「来年に期待したい」と語っている。これまで強い相手と戦ってきた経験が来年に活きるはずだ。

一方のエイシンヒカリは⑨着。サイレンススズカ級では?”といった期待に、一旦は背く形になってしまった。

“一旦は”と書いたのは、「まだ見限るには早計では?」と思うから。というのも、エイシンヒカリが今回作ったペースは前半1000mが58秒8。阪神芝1800mの牡牝混合重賞で前半1000mが58秒9以内だったレースはこれまで4レースあったが、いずれも4角先頭の馬は馬券圏外に沈んでいる

「単に逃げた馬が弱かっただけでは?」というとそんなことはなく、逃げて敗れた馬の中には後に安田記念を制したショウワモダン(08年鳴尾記念)や、その後重賞を3勝したシルポート(10年鳴尾記念)、現役馬ラブリーデイ(13年毎日杯)の名もある。

このコースでそれだけのペースで逃げたことは、卓越したスピードの証明と言えるのではないか。サイレンススズカも本格化したのは4歳になってからだったわけで、逃げ馬を一度や二度の大敗で見限ることはできないだろう。

今回はトーセンスターダムエイシンヒカリで明暗を分けたが、この2頭が4歳となってからどんな戦いをするか、楽しみにしたい。