大一番を知り尽くしているコンビの手腕によって高い潜在能力が開花
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博
ただ1頭、まったく勢いが違っていた。ラスト200m。中団馬群の中からようやく視界が開け、外へ持ち出された
ショウナンアデラが一気にトップギアへ切り替えた。弾むようなフットワークはメンバー中、唯一DNAを受け継いでいる
父ディープインパクトを彷彿とさせるもの。一度は抜け出した
レッツゴードンキがまるで止まっているかのような一気の末脚で混戦を断ち、
2歳女王の座に立った。
道中は好位追走という今までの競馬とは違い、後方で脚をためる形。
「一度はこんな競馬をしてみたかった」と
蛯名騎手は振り返るが、
出遅れという想定外の事態によるところが大きく、この大事な一戦でいきなり行うとは思っていなかっただろう。
しかも、馬群で揉まれるような競馬もほとんど初めて。さらに、直線では何度か進路を探すようなシーンもあり、スムーズにさばけたというワケでもない。こんな
数々の逆境にさらされながらも、ゴール前での測ったような差し切り勝ちは
高い能力のなせる業。半馬身という着差以上の強さを感じさせた。
二ノ宮調教師、
蛯名騎手ともに
「来年につながるような競馬ができれば」と、レース前は少し控えめに話していた2歳女王決定戦。ただ、過去に
凱旋門賞で②着に入った
エルコンドルパサーや
ナカヤマフェスタなど、
大一番を知り尽くしているコンビの手腕に触れないわけにはいかない。
常に脚もとへの負担を考えながら、調教では馬なり主体の調整。その姿勢は今回のG1を前にしても崩さなかった。そして、テンションの上がりやすい気性面を考慮して、レース2日前に阪神競馬場入り。前日にはパドックなどスクーリングを行い、万全の態勢で送り出した。
蛯名騎手の「教育」も見逃せない。
新馬で②着に敗れ、休養を挟んだ後の
未勝利、
からまつ賞での連勝。軽く仕掛けた程度で先頭へ立ち、1馬身程度のリードを取ってからは、スッと流すようにゴール板を駆け抜けている。
能力の高さが手綱越しに伝わるからこそ、あえて無理をさせず、MAXのパフォーマンスを「封印」しているようだった。ようやく
高い潜在能力をフルに引き出した全力の走り。
決して驚きはしない「完勝」だった。
上位3頭の顔ぶれを見ると、ある「共通項」に気づく。それは、
全馬がマイル以上の距離で勝ち鞍を挙げていたということ。外回りの施行になった06年以降、昨年までの過去8年で連対馬16頭中、8割以上の13頭がこの条件を満たしていたのだ。
直線の長い外回りに替わり、スピードだけではなく、確かな底力が問われるレースになったということだろう。今年は出走した18頭中、マイル以上で勝っていたのは7頭だったが、結果的にはその中の3頭が上位を独占した。
来年以降も覚えておいた方がいい傾向だろう。
今年は取材を重ねていっても、最近では記憶にないぐらいの大混戦ムード。結果的に勝ちっぷりのインパクトを買われた新馬勝ち直後の
ロカが抜けた1番人気になったのには少し驚いた。
今までキャリア1戦での勝利といえば11年の
ジョワドヴィーヴルのみ。数々の名牝を育て上げてきた
松田博調教師の管理馬で、このレースでは他にも新馬勝ち直後の
レーヴダム-ルでの②着(07年)や、
ロカと同じく抽選突破組だった
ブエナビスタの勝利(08年)など数多くの好走例がある。
牝馬の扱い方は「別格」と言える存在で、個人的には「例外」に近いものだと感じている。2歳同士の1戦とはいえ、やはり
キャリアは非常に重要な要素。出遅れからリズムを乱した
ロカのレースぶりを見ながら、あらためて痛感した。
ただ、先ほども書いたが、
和田騎手が
「普通に走ればモノが違う」と評価していた
能力の高さは、初戦の走りからも疑いようがない。この敗戦を糧に、さらなる成長を遂げてほしいと思う。
先ほど大混戦ムードと書いたが、正直、傑出馬不在という意味で使った言葉でもある。個人的に現2歳世代でもっとも強いと思っている牝馬はこの舞台に出てこなかった。実は関東馬で、実際に取材したことはないのだが、
ルージュバックという馬の存在が気になって仕方ない。
新馬、
百日草特別とデビューから
無傷の2連勝中だが、とにかく軽く仕掛けただけで、モノが違うと言わんばかりの勝ちっぷりが強烈な印象として残っている。現在は
ソエのために休養中で2月あたりでの復帰を予定しているというが、その瞬間が今から楽しみだ。
頭ひとつ抜け出した状態ながらも、まだまだ成長も見込める
ショウナンアデラという
ひとつの「柱」がしっかりとできた牝馬クラシック戦線へどのように絡んでいくのか。さらに、今回は
ディープ産駒が1頭だったように、まだまだ未知の大物が眠っているのか。
ハープスター一色だった昨年とは違う様相だが、来春も熱い戦いが期待できそうだ。