長距離戦で、ベタ血統 万歳!
文/編集部(M)、写真/川井博
以前、
「あまりにベタ過ぎて、逆に買えなかった……」と嘆いている人がいた。①着
スリーロールス(8番人気)、②着
フォゲッタブル(7番人気)という
ダンスインザダーク産駒のワンツーとなった
2009年菊花賞のレース後だ。
ダンスインザダーク産駒が
長距離戦を得意にしているのは誰もが知るところで、そのレースは出走18頭の中で同産駒が2頭だけだった。当然、目を付けはしたのだが、その2頭の組み合わせを買うなんて
「あまりにベタ過ぎる」と思ったのだという。
しかし、結果は、③着以下に1馬身以上の差を付けての
①&②着。長距離戦は、
「血統的にベタすぎる組み合わせを買うべし」という好例だった。
長距離を得意にする血統と言えば、90年代は
リアルシャダイ、00年代は
ダンスインザダーク、そして近年は
ハーツクライという感じになってきている。
サッカーボーイや
ブライアンズタイム、
ステイゴールド、
エルコンドルパサーなども長距離重賞ウイナーを複数輩出しているが、より
ベタな長距離血統と言えば、やはりその3頭だろう。
ダイヤモンドSでも
リアルシャダイ、
ダンスインザダーク、
ハーツクライという3種牡馬の血を持つ馬はよく好走してきた。95年以降の好走馬で、その血を持つ馬がどれくらいいたか、ご覧いただきましょう。
【95年以降のダイヤモンドSの③着以内馬】
| 年着順 |
馬名 |
父馬 |
母父馬 |
| 15年①着 |
フェイムゲーム |
ハーツクライ |
アレミロード |
| ②着 |
ファタモルガーナ |
ディープインパクト |
エリシオ |
| ③着 |
カムフィー |
ダンスインザダーク |
ノーザンテースト |
| 14年①着 |
フェイムゲーム |
ハーツクライ |
アレミロード |
| ②着 |
セイクリッドバレー |
タニノギムレット |
フジキセキ |
| ③着 |
タニノエポレット |
ダンスインザダーク |
ジェネラス |
| 13年①着 |
アドマイヤラクティ |
ハーツクライ |
エリシオ |
| ②着 |
ジャガーメイル |
ジャングルポケット |
サンデーサイレンス |
| ③着 |
メイショウカドマツ |
ダイワメジャー |
Kris S. |
| 12年①着 |
ケイアイドウソジン |
キングカメハメハ |
Cutlass |
| ②着 |
ギュスターヴクライ |
ハーツクライ |
Fabulous Dancer |
| ③着 |
スマートロビン |
ディープインパクト |
Lyphard |
| 11年①着 |
コスモメドウ |
King's Best |
Sadler's Wells |
| ②着 |
コスモヘレノス |
グラスワンダー |
エリシオ |
| ③着 |
キタサンアミーゴ |
フジキセキ |
トニービン |
| 10年①着 |
フォゲッタブル |
ダンスインザダーク |
トニービン |
| ②着 |
ベルウッドローツェ |
ダイタクリーヴァ |
バンブーアトラス |
| ③着 |
ドリームフライト |
フサイチソニック |
リアルシャダイ |
| 09年①着 |
モンテクリスエス |
シンボリクリスエス |
Last Tycoon |
| ②着 |
ブレーヴハート |
サンデーサイレンス |
Garde Royale |
| ③着 |
スノークラッシャー |
サッカーボーイ |
リヴリア |
| 08年①着 |
アドマイヤモナーク |
ドリームウェル |
トニービン |
| ②着 |
コンラッド |
ダンスインザダーク |
Nureyev |
| ③着 |
レーザーズエッジ |
グラスワンダー |
アサティス |
| 07年①着 |
トウカイトリック |
エルコンドルパサー |
Silver Hawk |
| ②着 |
エリモエクスパイア |
スキャターザゴールド |
コマンダーインチーフ |
| ③着 |
アドバンテージ |
エリシオ |
Blushing Groom |
| 06年①着 |
マッキーマックス |
ダンスインザダーク |
ディクタス |
| ②着 |
メジロトンキニーズ |
ダンスインザダーク |
モガミ |
| ③着 |
トウカイトリック |
エルコンドルパサー |
Silver Hawk |
| 05年①着 |
ウイングランツ |
ダンスインザダーク |
Alysheba |
| ②着 |
ハイフレンドトライ |
リアルシャダイ |
Seattle Dancer |
| ③着 |
チャクラ |
マヤノトップガン |
Caerleon |
| 04年①着 |
ナムラサンクス |
サクラチトセオー |
スルーザドラゴン |
| ②着 |
ミッキーベル |
サクラローレル |
ノーザンテースト |
| ③着 |
タニノエタニティ |
ラムタラ |
カツラギエース |
| 03年①着 |
イングランディーレ |
ホワイトマズル |
リアルシャダイ |
| ②着 |
ハッピールック |
トニービン |
Caerleon |
| ③着 |
ダイタクバートラム |
ダンスインザダーク |
サクラユタカオー |
| 02年①着 |
キングザファクト |
Known Fact |
Koluctoo Bay |
| ②着 |
フサイチランハート |
サンデーサイレンス |
リアルシャダイ |
| ③着 |
トシザブイ |
ヴィジョン |
ブレイヴェストローマン |
| 01年①着 |
イブキヤマノオー |
ロドリゴデトリアーノ |
アラナス |
| ②着 |
メジロランバート |
メジロライアン |
ミスターシービー |
| ③着 |
トシザブイ |
ヴィジョン |
ブレイヴェストローマン |
| 00年①着 |
ユーセイトップラン |
ミルジョージ |
ネヴァービート |
| ②着 |
ジョーヤマト |
シンボリルドルフ |
Assert |
| ③着 |
スエヒロコマンダー |
コマンダーインチーフ |
トウショウペガサス |
| 99年①着 |
タマモイナズマ |
タマモクロス |
モーニングフローリック |
| ②着 |
ロングワールド |
トロメオ |
ハードリドン |
| ③着 |
タヤスメドウ |
サンデーサイレンス |
ダンサーズイメージ |
| 98年①着 |
ユーセイトップラン |
ミルジョージ |
ネヴァービート |
| ②着 |
ステイゴールド |
サンデーサイレンス |
ディクタス |
| ③着 |
トキオエクセレント |
ゴールデンフェザント |
Storm Bird |
| 97年①着 |
ユウセンショウ |
ラグビーボール |
カツラノハイセイコ |
| ②着 |
ビッグシンボル |
リアルシャダイ |
トウショウボーイ |
| ③着 |
タマモハイウェイ |
タマモクロス |
モーニングフローリック |
| 96年①着 |
ユウセンショウ |
ラグビーボール |
カツラノハイセイコ |
| ②着 |
オースミベスト |
ノーザンテースト |
Secretariat |
| ③着 |
ホッカイルソー |
マークオブディスティンクション |
ホッカイダイヤ |
| 95年①着 |
エアダブリン |
トニービン |
Nijinsky |
| ②着 |
シュアリーウィン |
ハードツービート |
テスコボーイ |
| ③着 |
ユーワテイオー |
リアルシャダイ |
ノーザンテースト |
こうしてみると、長距離血統の馬が好走する頻度は、
近年の方がより顕著だと言える。05年以降の近11年では、
リアルシャダイ、
ダンスインザダーク、
ハーツクライの血脈を持つ馬が馬券に絡まなかったのは3回だけ(11年、09年、07年)。近年は
スピード色の強い配合が成されるようになり、その裏返しとして、
長距離血統のスタミナ特性が強く浮かび上がるようになっているのではないだろうか。
今年の
ダイヤモンドSは、16頭中14頭が
父サンデー系で、例外の2頭も母父が
サンデーサイレンスだったので、出走馬がすべて父か母父
サンデー系という、血統だけで眺めると
異様な組み合わせだった。
ただ、その中で
ハーツクライ産駒は
フェイムゲームだけで、
ダンスインザダーク産駒は
カムフィーと
タニノエポレットだけ。
リアルシャダイを持つのも
カムフィー(母母父)だけで、ベタな長距離血統を持つのは3頭だけだった。そして、結果は①着が
フェイムゲームで、③着が
カムフィー(②着は
ディープインパクト産駒の
ファタモルガーナ)。やはり
「長距離戦はベタ過ぎる買い方」が良いのだ。
かつて
大川慶次郎氏は、
「馬が距離をこなすかどうかは、性格による部分が大きい」と話していた。そうであれば、
リアルシャダイ、
ダンスインザダーク、
ハーツクライという3頭は、長い距離を走っても
気持ちが切れない性格を遺伝させているのだろう。
今年の
ダイヤモンドSは、近年の長距離戦にありがちな
緩急のあるレースになったが、そんな流れでも
フェイムゲームは後方寄りでジッと追走し、
カムフィーは行きたがる面を見せつつも中団で脚を温存していた。
カムフィーは鞍上の
柴田善騎手が道中でなだめるのに苦労している感じで、さすがに最後は脚が上がってしまうかと思われたが、そんなことはなく、逆にしっかり伸びて
ステラウインドを交わしてみせた。
祖母の父が
リアルシャダイという
ダンスインザダーク産駒を穴ぐさ💨に挙げて、
「恥ずかしくないのか!?」と言われれば、まあ、少々恥ずかしい気はしましたが(笑)、このようなタイプが好走するのが長距離重賞で、
ダイヤモンドSなんですよ。
長距離戦は、ベタ血統、万歳!なのです。
優勝した
フェイムゲームは、トップハンデでの大外枠に恐れをなして「メインレースの考え方」で印を付けなかったが、1周目の3~4コーナーではすでに
中団の中に潜り込むことに成功していて、操縦性の高さが光っていた。2周目の4コーナーで前が詰まり、前の馬を交わそうとして他馬と他のジョッキーに迷惑をかけてしまったのは残念だったが、そこからの
伸びは鮮やかだった。
フェイムゲームは今回の馬体重が
456kgで、これは出走16頭の中でもっとも軽かった。それでいてトップハンデの
斤量58kgを背負い、
メンバー中最速の上がり(34秒6)を繰り出して
2馬身差を付けるのだから、どれだけの
スタミナがあるというのだろう。
カムフィーには
リアルシャダイの血が入っていることを前述したが、
フェイムゲームの母母父は
ディクタスで、祖母
ベルベットサッシュは
サッカーボーイの全妹にあたる。
サッカーボーイは
ナリタトップロードや
ヒシミラクル、
アイポッパーといった
長距離砲を輩出しているから、それらの血脈が
無尽蔵なスタミナの源泉になっているのだろう。
フェイムゲームは
ダイヤモンドS連覇で、
ハーツクライ産駒はこれで芝3000m以上の重賞で4勝目となった。その4勝は
東京競馬場と
阪神競馬場でのもので、
京都競馬場ではまだ勝てていない。
菊花賞では11年
ウインバリアシオンの②着が最高で、
天皇賞・春では
ウインバリアシオンの②着(14年)と③着(12年)までとなっている。
ハーツクライ産駒は
京都競馬場の芝重賞での成績が[2.5.6.37]で、外回りコースに限ると
13年日経新春杯での
カポーティスターしか優勝できていない。
鬼門と言えそうだから、
フェイムゲームが
天皇賞・春を制するには、
母系の後押しが必要だろう。
幸いなことに、前述した
サッカーボーイ産駒の長距離砲(
ナリタトップロード、
ヒシミラクル、
アイポッパー)は、いずれも
京都競馬場での長距離戦を得意にしていた。
フェイムゲームは
母系の成長力がどこまであるかが今後のカギになってくるのではないだろうか。