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「鬼門」突破は将来的に見ても、非常に価値が高い偉業かも
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


競馬界の七不思議、と表現しては言い過ぎか。しかし、取材すれば多くの人から「意外だね」という反応が返ってきた。このフェブラリーSが2、3歳限定戦を除くJRA平地G1・13レースの中で唯一、連覇のない一戦だということだ。

もともと、ダート路線はヴァーミリアンアドマイヤドンなど、一線級の活躍期間が非常に長く、賞金面で優位に立つキャリア豊富な高齢馬たちが幅を利かせている。むしろ、2年続けて勝利する確率が非常に高いレースと思っていた。しかし、実際にはまだない。前述した2頭もフェブラリーSを優勝した翌年、③着以内にすら入ることはできなかった。

今年、その「鬼門」に挑んだのはコパノリッキー。最低人気、単勝272.1倍で制した昨年とは違い、今年は堂々たる圧倒的1番人気に推されていた。まったく違う立場での出走。レース前に武豊騎手「去年とは同じ形にならないだろうね」と口にしていた。しかも、逃げ宣言していたコーリンベリーがスタートでまさかの出遅れ。場内が大きなざわめきに包まれ、想定外の形の中でも、王者はいたって冷静だった。

逃げるアドマイヤロイヤルを前に見ながら2番手を追走。直線なかばで早々と先頭へ立つと、最後までスピード感あふれるフットワークは維持したまま。最後はインカンテーションが詰め寄ったが、完勝といえる走りでレース史上初の快挙を達成した。

着差は昨年と同じ半馬身。ただ、前半3ハロン(34秒3)は昨年より1秒2、1000m通過タイム(60秒0)も0秒6速いペースだった。そして、先ほども書いたように、迎え撃つという昨年とは立場が違う中での優勝。そんな非常に質の高いパフォーマンスを生んだのは、陣営「攻め」の姿勢だった。

昨年末の東京大賞典。楽に先手を奪いながら、直後の2番手につけていたホッコータルマエに抵抗する間もなく前へ出られ、アッという間に4馬身差をつけられた。②着とはいえ、村山調教師には悲壮感しかなかったという。「力の差を見せつけられましたね。このままではG1のトップレベルで戦っていく上で力不足だな、と。もう1段階、パワーアップさせないといけないと思いました」

年が明けると、カイバの量を今までより1割ほど増やし、その分、調教でかける負荷を強化した。前走の東海Sではたくましさを増した馬体で前走から11キロ増(538キロ)。この中間も1週前にCWコースで7ハロンと長めに時計を出すなど攻める調教を施しながらも、中間は馬体重が550キロにまで達した時もあった。

豊富な成長力に磨きをかけ、5歳にして迎えた充実期。連覇は必然だったのかもしれない。当然、視線の先に見据えているのはホッコータルマエとの再戦。今の状態でどれだけ立ち向かえるのか、逆転も可能なのか。非常に楽しみに思っているのは私だけではないだろう。

そして、レース初の偉業へ導いたのは、やはり武豊騎手。実はこのレースがG1になった97年以降、すべての年で手綱を取っている。レース史上最多の4勝目は、自身にとってトーセンラーで制した一昨年のマイルCS以来、実に1年3ヵ月ぶりのJRA・G1制覇。

ここで勝ったことに、個人的には特別な巡り合わせを感じた。というのも、いよいよ来月からM.デムーロ騎手ルメール騎手がJRAの騎手としてデビュー。ジョッキーの勢力分布図、いや、日本の競馬は間違いなく変わる。実際に有力馬の次走の取材をしていても、二人の名前を聞くことが非常に多くなってきた。これからのG1では毎回のように有力馬の手綱を取り、結果を出していくと思う。新時代の足音が確実に聞こえてくる中、日本競馬のシンボルともいえる名手が今、この時期に挙げたG1勝利。重みのある「意地」のようにも感じた。

今年はホッコータルマエが不在だったとはいえ、6歳以上の馬が9頭と半分以上を占めたメンバー構成。その中で①~③着を5歳馬が独占した。この3頭に共通しているのは、ほとんどダートしか走っていないこと。コパノリッキーと③着ベストウォーリアはデビューから一貫して芝を走ったことがなく、②着のインカンテーションも芝は2歳秋まで。ダート一筋な馬たちということになる。

以前のダート戦線は芝で行き詰まった馬たちの新境地というイメージが強かったが、今は早い時期から番組も充実。これからも、こんなタイプは増えていくと思う。最初にも書いたように新陳代謝の遅いイメージが強い路線だったが、それも今や昔の話なのかもしれない。今後は世代交代のサイクルが早くなる可能性は十分に考えられる。となると、今回の連覇は将来的に見ても、非常に価値が高い偉業なのかもしれない。