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たまには驚きが喜びに変化するレースがあってもいい
文/編集部(W)、写真/稲葉訓也


中京芝1400mに舞台を移して今年で4年目。4年連続でフルゲートで行われたが、1番人気の単勝オッズは2.9倍(12年④着レオアクティブ)、3.6倍(13年⑦着ティーハーフ)、3.7倍(14年①着タガノグランパ)、そして今年は4.7倍(④着フミノムーン)と上昇の一途を辿っている。

12~14年の1番人気は重賞で③着以内があった馬だが、フミノムーンは今回が重賞初挑戦ということで、前走、同コース&稍重のなずな賞で快勝している点が評価された形か。いずれにしても、例年以上に大混戦模様で、何が起きても驚かない覚悟はしていたが、そんな覚悟はあっさりと吹き飛ばされてしまった。

過去3年を振り返ると、4角5番手以内は[0.0.2.15]で、先行馬は明らかに苦戦している。さらに、③着以内馬9頭は15頭立て以上のレースで連対経験があり、“多頭数実績”も重要なファクターとして浮上していた。

なので、先行脚質で、3連対は12頭立て以下で記録していたタガノアザガルは、過去3年の傾向からは好走モデルと遠いところにいる存在と言え、単勝78.3倍の14番人気もやむを得ずという印象だったのである。

ところが、タガノアザガルは好位内でソツなく立ち回り、直線後半は逃げ込みを図るアクティブミノルとの壮絶なデッドヒート。最後は内から猛追してきたヤマカツエースも加わり、ゴール前は大接戦となったが、真ん中のタガノアザガルのハナがグイッと出たところがゴールだった。

1000m通過58秒0は12年以降だと昨年(57秒1)に次いで速く、昨年は良馬場、今年は稍重だったことを考えるとハイペースだろう。そんな展開で差し込めなかったグループが力不足だったのか、それとも、先行して踏ん張ったタガノアザガルアクティブミノルの好走を高評価するべきなのか。

上位3頭は直線で内を通った馬で、外枠から外を回って差した馬には厳しい展開だった可能性はあるが、アクティブミノルは差し決着の朝日杯FSで⑤着に逃げ粘った馬で、57kgを背負ってハナ差②着に粘った内容は地力の高さの成せる業だと思う。

そして、アクティブミノルを目標にできた利や、1kg軽い56kgだったとはいえ、それを叩き合いで競り負かしたタガノアザガルの根性も光る。芝1400mはこれで②①①着。その4連対は阪神と中京で記録したもので、坂のあるコースの芝1400m巧者は脚質不問でそれなりの評価をする必要がありそうだ。

というように、驚きの大激走が起きた今年のファルコンSだが、写真判定中は「タガノアザガルに勝ってほしいなあ」と願っていた。それは鞍上・松田騎手JRA重賞初勝利が懸かっていたから。実にデビュー19年目、112回目の挑戦でのタイトル奪取だった。

昨夏、アクティブミノルをデビュー勝ちに導いた同日(7月12日)のメインレース(五稜郭Sエアアンセムに騎乗)で騎乗停止処分を受けた松田騎手。翌週、代役を務めた藤岡康騎手に導かれ、アクティブミノル函館2歳Sを制した。

藤岡康騎手函館2歳Sのレース後、「前走で乗っていた松田騎手からすごく乗りやすいと聞いていたので、そんなに心配することはありませんでした」と話していた。松田騎手はどんな思いでレースを見届けていたのだろうか。

今回はそのアクティブミノルを大接戦の末に競り負かしてのJRA重賞初制覇。こんな巡り合わせは競馬の神様の所業としか思えない。

ファルコンSのレース後、松田騎手は人目をはばからずに泣いたという。JRAに移籍して1ヵ月も経たないうちに重賞を2勝してしまう騎手もいれば、1勝に19年を要する騎手もいる。それが優勝劣敗の現実なのだろうが、そんな厳しい世界だからこそ、勝った時は心からお祝いしたくなる。馬券は外したが、驚きは喜びに変化。たまにはそんなレースがあってもいい。