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海外のライバルと切磋琢磨、それこそが真の国際化の産物
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史


うーむ、美しい。高松宮記念のレースVTRを2度、3度と見たが、勝ったエアロヴェロシティのコース取り、勝ちっぷりは見事という他ない。何度でも味わいたくなる美しさ。熱心な競馬ファンなら、このVTRを肴にきっと酒がすすむ?だろう。

2枠4番からロケットスタート。冷静にアンバルブライベンを行かせ、3番手をキープ。馬場のいい外にこだわる馬が多い中、イン1頭分を空けて運んだ。しかし4コーナーを迎えると作戦は一変。外を回したハクサンムーン目がけて外に進路を取る。外から伸びたミッキーアイルに馬体を併せ、残り150mからは鞍上のザカリー・パートンが左ムチ連打。残り50mからグイッと伸び、ハクサンムーンを半馬身差退けた。

と、まずはエアロヴェロシティがいかにして勝ったかをなぞってみた。これら要所要所で見られたナイスプレーは実はすべて理詰め。関係者考え抜いて打った手がきっちり決まってつかんだ異国の勝利なのだ。

まずは18頭中、トップのロケットスタート。これはブリンカーの効果だ。「ブリンカーを着けるとスタートが速くなる」パンチー・ン助手は事前に話しており、その通りの結果となった。よく見ると、そのブリンカーには長細い隙間が開いている。これがキモだ。

勝負どころで相手が見えた方が闘志を発揮するエアロヴェロシティ。この隙間からハクサンムーンミッキーアイルを確認し、ラストの伸びにつなげたのだ。集中させたい、しかしここ一番では他馬の姿を馬に見せたい。一見矛盾するテーマを一気に解決した魔法のブリンカーに、まず陣営の工夫があった。

4コーナーからはパートン騎手の技術と馬自身の闘争心の素晴らしさが何と言っても目を引いた。迷わず馬を外へと向けたパートン。その先には早々と先頭をうかがったハクサンムーンがいた。

まるで「いいか、この馬を倒せよ」と馬に伝えたかのような誘導ぶり。ハクサンムーンには一瞬、差をつけられ、このあたりが「坂の手前で苦しんだ」パートンが語ったシーンなのだと思うが、外から伸びてきたミッキーアイルにすかさず馬体を併せた。このへんの判断の良さにはため息が出る。

そして左ムチ連打。ハードなアクションの中にも、パートンの頭から背中のラインはまったくブレることなく、右腕でリズミカルに馬の首を押している。その華麗な技に呼応するように、馬は残り50mで自ら手前を替えてもうひと伸び。ライバル2頭を後方へと追いやった。

今月は競馬の国際化というものを何度も意識させられた。ミルコ・デムーロクリストフ・ルメールが日本人騎手と同様の扱いとなった。オーストラリアではリアルインパクトが接戦をものにした。ドバイ国際競走には日本馬が大挙参戦。そして高松宮記念は昨年の香港スプリント優勝馬がしっかり勝ち切った。何というか、日本の競馬はもう世界の競馬地図にがっちり組み込まれているのだと痛感する。

ただ、そのことを危機感として捉える時期はもう過ぎたという気がしてきた。エアロヴェロシティの完璧な勝ち方を見て、このことを純粋に楽しまないのは競馬ファンとして損ではないかと感じたのだ。

確かにロードカナロアがいなくなった後の国内短距離勢は小粒になった。そのこと自体は残念だが、エアロヴェロシティという世界に誇れるスプリンターを異国の強豪ではなく、我らがアジアの代表として捉えてもいいのではないかと思ったのだ。何だか、いかにも海外通のような意見を吐いてしまって若干気恥ずかしいのだが…。

競技は好敵手がいるからこそ伸びるエアロヴェロシティは秋のスプリンターズSにも来日するという。今回の敗戦を糧に、国内のスプリンターにはもっと力を付けてほしいし、厩舎関係者も香港に負けないぞと気合を入れ直してほしい。それこそが真の国際化の産物だ。

②着ハクサンムーンは全力を尽くして散った。前述したように、4コーナー過ぎで接近した勝ち馬をいったんは引き離している。勝ち馬の最後の伸びが驚異だったのであって、さすがの走りだったと称賛できる。秋、また期待したい。

③着ミッキーアイルもいよいよ本物だ。前走・阪急杯②着でひと皮むけたと感じたが、今回も納得の走りは見せた。秋こそ主役か。ロードカナロア級の超大物に化けても何ら不思議はない。