これほどの末脚で差し切り、突き放したことは驚きだった
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也
朝から雨が降り続くあいにくの空模様となったが、レースは
良馬場での開催。自分は
「これだけ雨が続いたのに良馬場?」という印象だったが、このレースの
勝ちタイムが1分32秒2で、過去10年の中山開催ではもっとも速いタイムだった。実際、馬場はそこまで悪くなっていなかったのだろう。
1番人気に推された
モーリスの不安材料は、何と言っても発馬。長期休養明け以降2連勝しているが、いずれも出遅れている。条件戦では通用しても、重賞の、しかも
ダービー卿CTで出遅れると厳しいのでは……というのがレース前のイメージだった。
というのも、近年の
ダービー卿CTはある程度前に行った馬が押し切るケースが多く、
ダービー卿CTがマイル戦となった96年以降、
中山開催における勝ち馬は18頭中17頭が4角7番手以内。もっとも後ろから行った馬が12年の勝ち馬
ガルボで、それでも4角9番手からの競馬だった。
そして、
モーリスは今回も出遅れた。このコースで勝利した今年1月の
若潮賞のように道中で前に行くわけでもなく、4角でも13番手。これでは届かないのでは…と一瞬思わせたが、一回エンジンが掛かると一気に突き抜け、
3馬身半差の圧勝となった。
前半1000m通過は58秒0。遅くはないが、
カレンブラックヒルが4角4番手から勝利した昨年(57秒9)、逃げた
トウケイヘイローが押し切った一昨年(57秒3)に比べれば速いとも言い切れない。それだけに、これほどの末脚で差し切り、しかも後続を突き放したのは少なからぬ驚きだった。
一方、
勝ち時計の1分32秒2自体も大きな驚きではあったが、こちらは
個人的には少し納得がいくものでもあった。
“個人的”と書いたのは訳がある。現在
『サラブレモバイル』で
西塚信人助手と
JRA美浦TC馬場造園課課長・重岡氏との対談を行っているが、最終回となる次回で中山の芝が話題になっていて、その話が非常に興味深かったのだ。
詳しくは
更新予定の8日(水)にご覧いただくとして、そこで
重岡氏は
「中山の芝は9月を100とすれば、それから翌年の皐月賞まで貯金を使っていく感じ」という趣旨の発言をしている。
例年の中山の日程を見ると、9月に秋開催の開幕を迎え、
1ヵ月開催。2ヵ月の東京開催を挟み、12月に年末開催が始まり、年明けの1月末まで
2ヵ月開催される。1ヵ月の東京開催を挟み、2月末から4月末までの連続開催を経て、
皐月賞まで
2ヵ月開催となる。
1~2ヵ月のインターバルはあるが、長い養生期間をとることはできない。
そこから
例年なら9月まで開催がなく、それが芝の養生の時期となる。
それだけ空かなければ芝の状態を完全に戻すことはできないわけで、自分は1、2ヵ月間隔が空けば芝は元通りに近くなると思っていたが、そうでもないようだ。
それが、
昨年は9月の中山開催がなく、12月からの開催だった。ということは、貯金を使い始める時期が例年より遅かったわけで、
今年春の中山の芝状態が例年より良いと考えるのは、決して不自然ではないだろう。
今週が終わり、中山開催もあと2週となったが、例年通り時計がかかる……と考えていると、少しズレが出てくるかもしれない。2週後の
皐月賞を考える上でも、馬場状態は要注目と言えそうだ。
96年以降、
ダービー卿CTと
安田記念を同年に制したのは10年の
ショウワモダンのみ。
安田記念は良馬場ならかなり時計が出やすいレースだけに、
これだけの時計で勝ち切ったことの価値は高そう。
ショウワモダンに続く可能性は十分あるのではないだろうか。