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「阪神開催のアンタレスS」らしい一戦だった
文/浅田知広、写真/森鷹史


12年から施行時期が1週繰り上がり、以前の京都開幕週から、春の阪神開催最終週になったアンタレスS。コースが変わればもちろん予想に影響はあるものの、1週ズレたくらいではレースの性格に大差はない、と思っていたものだ。

しかしその12年に、前年から連覇を飾ったゴルトブリッツが次走で帝王賞を制すると、翌13年は後のダート王ホッコータルマエと、G1馬ニホンピロアワーズによる一騎打ち。そして昨年はナムラビクターがここで重賞初制覇を飾り、暮れのチャンピオンズCではホッコータルマエに迫る②着と大健闘。京都開催時にもゴールドアリュールタイムパラドックスが優勝していたとはいえ、全体としてはあまりG1に繋がらない印象だったレースが、なにやらたった1週の違い、京都から阪神に変わっただけで、かなり重要性が増してきた

今年のアンタレスSには、連覇を狙うナムラビクター(2番人気)が出走。さらに、13年の2歳王者アジアエクスプレス(1番人気)が骨折明けをひと叩きされて駒を進めてきたほか、少し古い話になりつつあるが12年の東京大賞典馬ローマンレジェンド(3番人気)と、G1連対実績馬が上位人気を占めた。

加えて、これからそんな「G1実績馬」に加わっていきたい重賞2勝馬クリノスターオー(6番人気)や、重賞での実績が欲しいマルカプレジオ(4番人気)やマスクゾロ(5番人気)と、このあたりはG3っぽい面々。これがハンデ戦ならまた違うのだろうが、重賞勝ち鞍によって斤量が変わる、いわゆる「グレード別定」で、人気通りになんとなくG1実績馬有利かな、という印象を持ちつつレースを迎えた。

先手を奪ったのは、そんなG1実績馬の1頭アジアエクスプレス。2番手にクリノスターオーがつけ、2、3番人気のナムラビクターローマンレジェンドは中団を追走した。馬群はさほど伸びなかったものの、前半の1000m通過は60秒1。阪神・良馬場では13年が61秒6、昨年は62秒0だったのに比べると速めの流れとなった。

こうなると、中団のナムラビクターローマンレジェンドが有利か、という展開だったが、3コーナーでアクシデントサミットストーンが躓いてずるずるっと後退した際に、ローマンレジェンドは鞍上の岩田康誠騎手が立ち上がって外に振られる形になってしまったのだ。一方、そのやや前の内にいたナムラビクターはこの影響を受けず、ラチ沿いから距離損なく進出し、前を射程圏に捕らえて4コーナーを通過した。

そして直線に向くと、ペースが速かったわりに前の2頭が渋太く、残り300mで3馬身ほどのリードをキープ。ただ、外に持ち出したナムラビクターがじわじわと差を詰めはじめ、前半のペースも考えればどうやら届きそうな脚色。00~01年のスマートボーイ、11~12年のゴルトブリッツに続く、レース史上3頭目の連覇達成かと見えたのは、当方ナムラビクター①着固定の3連単を買っていたから……、なのだろうか。

ともあれ。じわじわ、じわじわ、着実に差は詰まり、レース後にラップを見ればラスト1ハロンは13秒0と、前が止まっていたことも確かなのだが、どうにもこうにも差し切る態勢には至らない。終わってみれば結局は「行った行った」。残り100mでアジアエクスプレスを競り落としたクリノスターオーが押し切って、重賞3勝目をマークしたのだった。

優勝したクリノスターオーは昨年も出走していたが、8枠15番から先行せずに⑯着大敗。以降はこの教訓を活かした形で道中2番手以内につけ、平安SシリウスSと重賞2勝、間のエルムSではローマンレジェンドとアタマ差の一騎打ち。今年も7枠13番と外枠を引いたが、押して2番手を取りに行き、3つ目のタイトルを手中にした。

前走のチャンピオンズCでは、先行した実力馬が①~③着を占めた中、逃げたこの馬はホッコータルマエに早めに交わされて⑧着敗退を喫していた。しかし今回、アジアエクスプレスナムラビクターと同斤量で勝ち切ったことは評価できる。もうひと伸びが期待できる5歳馬、そして初ブリンカーの効果が出た可能性もあり、過去3回の優勝馬同様、今後のG1での活躍も期待できそうだ。

競り負けたアジアエクスプレスは骨折明け2戦目で、この路線でやっていける手応えを確かなものとした。また、連覇を逃した③着ナムラビクターは少々の出遅れが、⑥着まで盛り返したローマンレジェンドは道中の不利が響いており、2頭とも次走以降での巻き返しはあるだろう。ホッコータルマエコパノリッキーというチャンピオン不在のG3戦ながら、やはり今年も「阪神開催のアンタレスS」らしい、先が楽しみになる一戦だったと言えそうだ。