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“競馬版・猪木アリ状態”を打破するのは地方競馬出身騎手
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也


格闘技の世界では、“猪木アリ状態”という言葉が存在する。一方が立った状態で、もう一方が寝た状態で対峙することだ。もちろんこれは、76年に行われたアントニオ猪木vsモハメド・アリの試合に由来する表現だ。

競馬の世界では、あまり“●●状態”という表現を聞いたことがないが、そろそろ命名する必要が出てきたように思う。ゲートが開いてスタートを決めた馬が複数いても、誰もハナに立とうとしない状態……最近はそんなケースが散見されるからだ。

言ってみれば、“今年の桜花賞状態”だ。いや、「今年の桜花賞」というだけじゃ何のことか分からないですね。“先頭譲り合い状態”というか、“スタート後、金縛り状態”というか、“先頭には立ちたくない症候群”というか、“ハナだけはいやよシンドローム”というか。後半はよく分からないですけど(笑)、とにかくスタートしてしばらくの間、誰もハナに行きたくない状態で譲り合うことだ。

今回の平安Sも、そんな状態となった。先行型が複数揃い、場合によっては先行争いが激しくなるかと思いきや、誰もハナには立とうとしないまま1コーナーを迎えそうになった。

前走のアンタレスSを制したクリノスターオーは、昨年の平安Sを勝利した時が2番手からの押し切りで、前走も同じ戦法での優勝だった。ということで、この馬は、先行しそうではあるものの逃げそうにはなかった

アンタレスSを逃げて②着に敗れたアジアエクスプレスは、今回は外枠(7枠13番)ということもあり、こちらも逃げそうになかった。前走で目標にされてしまったから、その反省もあることが想像された。

ニホンピロアワーズが前走の東海Sに続いて逃げるかと思われたが、好スタートを決めたもののハナには立たなかった。また、逃げ・先行で何度も好走したことのあるアスカノロマンもスタートを決めてハナを奪えそうな勢いだったが、ハナには立とうとしなかった。好位のインから抜け出してアルデバランSを制していて、それと同じ戦法を採りたかったのかもしれない。

いずれにしても、そんな譲り合い状態となり、たった10秒ほどではあるけれど、競馬としては長めのジリジリとした時間が経過した。観ている側としては何とも気持ちの悪い状態で、“競馬版・猪木アリ状態”という表現がいちばん合うのかもしれない。通過タイムの数字だけが増えていった。

格闘技で“猪木アリ状態”となったら、レフェリーがタイムを取って寝た状態の選手を起こし、お互いが立った状態で試合を再開させる。競馬の場合は、まさかスタートからやり直しというわけにはいかず、誰かがハナを切るまで待つことになる。

今年の桜花賞では、ハナを切るその役目をレッツゴードンキが果たし、今回の平安Sではインカンテーションが担った。

譲り合いばかりをしているからハナを切った馬に逃げ切られるんだ、と言いたいわけじゃない。馬個別には前走次走があり、それらがでつながっているから、逃げることがすべて正しいとは言い切れない。

前述した通り、アジアエクスプレスは前走の反省があったから、今回はハナに立たないことにこだわったのだろう。クリノスターオーも次走以降を見越してハナに立たない競馬に固執していると思われる。逆に、インカンテーションはレース後に内田騎手がコメントしていたように、前走でマイル戦(フェブラリーS)を使っていたから馬がいつも以上に行く気になったのだろう。そのようにしてつながっているわけだ。

ひとつ言えるとしたら、“競馬版・猪木アリ状態”を打破するのは地方競馬出身騎手なのかもしれない。桜花賞レッツゴードンキ岩田騎手だったし、今回のインカンテーション内田騎手だった。“競馬版・猪木アリ状態”となりそうな時は、地方競馬出身騎手がいないか探す。それもひとつの馬券作戦となりそうだから、覚えておこう。

オークスでのレッツゴードンキは⑩着に敗れてしまったが、次走で帝王賞を予定しているインカンテーションは果たしてどうなるだろうか。

前走で逃げ切った代償は意外に大きい……ということは一概に言えないと思う。平安S帝王賞は、距離延長とはいえ、延長される距離は100mだし、右回りで馬場を1周するコースというのも同じだ。歴戦の古馬ともなれば、その辺りをクリアしてくる可能性も高いだろう。

何より今回のインカンテーションは、デビュー以来最多の体重(498kg)で、次を見据えた造りだったと思われる。休み明けでは連対歴がなかった馬で、それだけに今回は狙いを下げて失敗してしまったが、次走への上積みも大きいだろう。鞍上の内田騎手にとっても、大井競馬場のダート2000mにしていたコースだけに、臨機応変な騎乗をしてくることが想像される。

思えば、同じく帝王賞を予定しているホッコータルマエも、前走のドバイワールドカップでは強烈な逃げを見せていた。帝王賞で先手を奪うのはどの馬だろうか。そして、先手を奪った馬が強味を見せるのか、それとも控えた馬に流れが向くのか。鞍上チェックも怠らずに臨むようにしたい。