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文句なしで世代の頂点へ立つにふさわしい走り
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


春のクラシック戦線。牝馬なら桜花賞からオークス、牡馬なら皐月賞から日本ダービー「王道」と言われるローテーションだ。実際に過去10年でダービーは7頭が皐月賞からの転戦、このオークスも過去10年で8頭のオークス馬桜花賞からの転戦組だった。

例外は06年カワカミプリンセス、10年サンテミリオン、11年エリンコートカワカミプリンセスはその後の活躍を考えても分かるように同世代の中では傑出した能力があったと考えるべきで、サンテミリオンは道悪、エリンコートは良馬場発表ながら雨が降りしきる中でパワー勝負となった一戦。いずれも別路線組が台頭する理由はあった。しかも、今年は桜花賞組が過去10年でもっとも多い13頭の出走。最近ではもっとも「王道」色の強いレースと言っていいだろう。

ただ、そんな数字をまったく気にもかけていなかった人間がいる。ミッキークイーンの手綱を取る浜中騎手だった。「普通、桜花賞に出ていないというのは能力などが足りなかったというパターンが多いかもしれないけど、この馬は出たかったけど、(3分の1の除外で)出れなかった。データなんて気にもしてないですし、能力は桜花賞組にもヒケを取りません」

この言葉は大げさでも何でもない。デビュー前の調教から「春が楽しみ」と言葉を弾ませ、並々ならぬ高い素質を感じ取っていたディープインパクト産駒。だからこそ、厳しい条件だったクイーンCでの②着を「取りこぼした」と表現していたし、桜花賞除外は本当に悔しがっていた。ようやく、堂々と迎える大舞台。普段から決して強気一辺倒でもないが、「負けないと思いますよ」と雑談の中で口にするほど、かなりの自信を持っていた。

レースはノットフォーマルが先手を奪い、前半5ハロンは61秒3のスローペース。1番人気のルージュバックは好位につけ、直線でいち早く抜け出してくる。そのルージュバックをマークするようにクルミナルが脚を伸ばし、さらに後ろからミッキークイーンが伸びてきた。ラスト2ハロンから馬場の真ん中を通って、3頭による叩き合い。最後は相棒の末脚を信じ、もっとも最後に追い出した浜中騎手ミッキークイーンが外から一気に突き抜けた。

②着は桜花賞で主役と言われてきた存在で、③着はそのレースで実際に②着に入った馬。上位3頭で後続に2馬身差をつけたうえ、この2頭をねじ伏せるような差し切り勝ち。文句なしで世代の頂点へ立つにふさわしい走りと言えるだろう。

そして、②着のルージュバック。1番人気に支持はされたが、どことなく漂う混戦ムードはこの馬によるところが大きかったのは事実だ。もともと、単勝1.6倍と圧倒的な支持を受けた桜花賞で⑨着。いくら展開が不向きだったとはいえ、まったく見せ場もなく、馬群に沈んでいく走りには首をかしげるしかなかった。しかも、短期放牧から帰厩して2週間足らずで競馬という点も取捨の選択を迷わせた。

しかし、レースでは好位から一度は完全に抜け出す正攻法の走り。最後はミッキークイーンに差されたものの、外から馬体を併せてきたクルミナルに先着を許さなかった点は底力の証しだろう。本質的に距離も向いていたと思う。ただ、以前のような「規格外」感は薄れてきたように感じるが…。

③着のクルミナルもゲート入りをゴネるなど幼い面を見せながらも、最後まで上位争いに加わった。1月デビューでまだ成長の余地は非常に大きいだけに、秋が楽しみな存在だ。桜花賞馬レッツゴードンキは道中でずっと折り合いを欠き、直線ではまったく伸びず。3冠最終戦の秋華賞は内回りの2000mとはいえ、やはりマイル以上の距離に不安を残した。現状では、この日の上位3頭が大きくリードしていると素直に考えていいのではないか。

最後にオークスは過去10年、4コーナー通過順が4番手以内だった馬の連対はわずかに1頭のみ。逆に7番手より後ろだった馬が13頭も連対している。後方に待機している組が台頭しやすいレースで、桜花賞「特殊」な形になった今年も、終わってみれば掲示板はルージュバック以外、差し馬が独占した。今後も覚えておいた方がいい傾向かもしれない。